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いろいろな尺八 [今日の工房]

いろいろな尺八
いろいろな尺八を見てきました。工房へ持ち込まれた尺八は日本全国の製管師が作製した苦労と創意工夫のたまものです。見事な外観とすばらしい鳴りの名品から安売り尺八まで機械で自動的に作った物は無く、皆1本ずつ手作業で形作られたからには、製作者の思いが込められていると思います。良い楽器を提供しよう、安価で誰もが購入できる尺八を提供しよう、そしてどんな人が購入しようと大事に長く使って欲しいと願いつつ製作していると思います。また、私の工房へ調整で持ち込まれる尺八は依頼者にとって何かしら欠点や不具合があるからなのですが、依頼者は一生懸命に吹いて慣れて音を出そうとしたのでしょう、そんな努力の跡が尺八に刻み込まれています。長く修理調整をやってきてもう30年近くになりますか、請け負った尺八は5千本を越えたでしょう。
たかが尺八されど尺八、これで飯を食ってる訳で、ありがたいと感謝しつつ依頼者はもちろん製作者にもそして尺八本体にも敬意をもって接していきたいと思います。

さて、驚いたこと,困ったこと、こんな尺八はいかが?という話題です。

「しの尺八」
しの尺八1.jpgしの尺八2.jpg
民謡のお客様がお持ちになっておりまして、歌口が小さいので吹きにくいから修正して下さいとのこと。おっと!これは初めて見る尺八?篠笛?
民謡では尺八も篠笛も吹ける方がいろいろな曲に対応できるから篠笛を習っておいた方が良いのですが、吹くことは出来るとしても7つの指穴運指がドレミになっていたりして戸惑いますね。そこで篠笛を縦にして尺八の歌口を取り付け、ロツレチの運指にしたのがこの「しの尺八」です。指穴が8つありまして下の穴からツメリ(ツ半音)、ツ中メリ、ツ、レ、チ、リメリ(ハ半音)、リ(ハ)、イ(ヒ)となっており、ツメリとツ中メリの二つが完備されているので便利ですが、ツの運指は中指を開けることになりちょっと戸惑います。音は当然篠笛の音ですが、とにかく歌口が小さくて慣れるのが大変!これなら篠笛を練習した方が早いかなあ……..。
しの尺八2本.jpgしの尺八3.jpg

「困った尺八」
地材料1.jpg
左は通常の漆「地」右がプラスチックの「地」

鳴りの改善を依頼され管内を削ることになったのですが、とにかく堅い!!ガリ棒でも歯が立たない。なんじゃこりゃとノミで削ってみると鰹節のような削り滓がポロポロ。プラスチック樹脂を充填して作製した量産品でした。作り方としては内径を型取った棒を広く削った管内に入れ、隙間に樹脂を流し込んで固まったら棒を抜くという「型抜き」製法ですね。現在安価で販売されている尺八は全てこれだと思います。棒が中心に沿ってバランス良く置かれていると結構良く鳴る尺八が出来るのですが、曲がっている竹材や偏って棒が挿入されると鳴りが良くありません。しかも固まると堅いので修正は出来ずそのまま販売……。樹脂を使う製法では管内一杯に充填した樹脂を特殊な旋盤でくり抜く「削りだし」製法もあり、こちらの尺八は結構バラツキが無いみたい……。これを調整依頼された時は泣きたくなりますね。電動ドリルを使い樹脂を削り落としてから改めて漆の「地」を入れて作り直しです。あーあ、やんなちゃった!
地材料3.jpg地材料4.jpg
堅い樹脂とは正反対、ボロボロの「地」もありました。表面の漆は固まっているのですがガリ棒やヤスリで削り出すと、ボロボロと崩れるように「地」が剥離して落ちてきます。漆ではない凝固剤を使用したり、漆の含有が少ない地の粉だけで固めたりして製作したのですね。漆より早く固まるので製作日数を稼げるのが利点でしょうか。しかし脆いのですよ。そーと削って正規の「地」で埋めても下の柔らかい凝固剤と接着せず、調律ができません。これもぜーんぶ落として「地」の入れ直し……トホホ。

「お経尺八」
お経1.jpgお経.jpg
レーザー加工で尺八の表面に経典を彫ってあります。プリントアウトしても、パソコンで作製した字や絵をデータCDに入れても、持っていけばそのままどんな素材にでも刻印してくれるそうです。

「三つ折れ尺八」
三つ折れ1.jpg三つ折れ②.jpg
これは私の工房で作製した物。A管(2尺4寸)なのですが5孔の上と1〜2孔間にジョイントがあります。長い尺八なので歌口角度の調節と1孔の位置が動くので薬指の位置を奏者に合わせることが出来ます。この尺八は中指が開いている6孔尺八です。通常ここに作られるジョイントが無いので中指穴が自由に設定できます。
作製は面倒ですがお客様には大好評!(まだ1本しか製作してませんが)

日々尺八は進化します。
このブログをご覧の皆様、この他に何かなるほどというアイデアなどございましたらご紹介下さいませ。




(株)目白にて尺八講習 [今日の工房]

11月12日(土)尺八のお店「目白」にて尺八性能アップ講習会をしてきました。
https://www.mejiro-japan.com/

鳴るための条件、性能アップの秘訣などを歌口・音程・内径に分けて図解しながら説明し、その後受講生の尺八診断をするというサービス満点の講習会です。毎日大量の調整依頼尺八と格闘しているので、いつもの作業を解説しているような感覚でした。受講生は12名集まりまして、それぞれ趣味で尺八を製作していたり、吹奏に悩みがあったり、訳あり尺八の受診だったりと受講の動機は様々のようですが熱心に講義を聞いていただきました。ただ、私の話が上手ではなかったのでうまく内容が理解できたかちょっと心残りではありました。

DSC00588.jpg

先ずは尺八の構造説明からスタートです。このブログでも詳しく解説しているように歌口構造、音程、内径のポイントなどを黒板に図解しながら講義していきました。
指穴図.cwk-(DR).jpg

その前に製作者から見た「尺八の定義」をお話したかどうか記憶が定かではないですが、このように思っていますと披露しました。
「良い尺八の条件」「良く鳴る尺八とは」という定義です。私は良く鳴るとは「大きな音で鳴る」ことではないと思います。歌口に唇を合わせやすい形状を持っている、つまり歌口エッジを探ることなくすぐ音が出る・吹きやすい・息が安定して入ることが大事であり「乙から甲まで同じ息量で反応」するのが「良く鳴る」尺八なのです。
そして音程が揃っている(筒音に対して同じ音程になり、オクターブでも合っていること)ことが「良い尺八」の条件なのです。その結果大きな音が出るのであり,良い音色が生まれるのだと思います。

同じ意味で「尺八の価値」ということを言いますね。
工房では修理調整依頼を受けるときよく聞かれる言葉があります。
「この尺八は直す価値があるでしょうか?」と。私はこう答えます。
「もしお手持ちの尺八が不具合や満足出来ない所があるのでしたら直して使いましょう!直して価値のある尺八にしましょうよ!」と。
つまり尺八は外観や竹材の善し悪しで鳴るわけではなく、製作者の技術力で性能が決まるのです。模様などの外観は自然が作ったもので作者の技術とは関係有りませんから、立派な竹材・外観(金銀などの装飾)は希少価値・贅沢品としての値段が付けられますが性能の値段ではありません。
ということで、私の製作する尺八は私の技術の範囲内の「価値のある尺八」であり、私より技術力のある人が製作すればさらに尺八の価値は上がるのです。
これは修理調整・改作でも同じことが言えます。

DSC00590.jpg

さて、おおよその尺八の構造説明が終わり、後半は受講生が持参された尺八の診断です。
ものすごく上手に製作している尺八がある一方、初歩的なところで悩んでいる尺八まで実に多様でした。
E6AD8CE58FA3E382ABE38383E38.jpg

歌口の成形が難しいようで、私のブログも読んでいただいているらしいのですが、エッジの深さが3mm以下の実に浅い形状が多かったですね。内径では理想曲線のグラフをチャートしながら製作しているつもりでも測定が悪いのか同じになっていないので鳴りが悪い尺八がありました。測定機器はリングゲージも良いのですがダイヤルキャリパーが高価ですが確実です。何度も測定して完全に同じ曲線になるまで管内を成形する練習をお勧めしました。

原田様A管.jpgキャリパー①.jpg

午後1時から開始された講義はあっという間に4時過ぎになってしまい、後半の尺八診断が急ぎになってしまったのでまた機会があれば診断のみの講義などしたいと思いました。
受講いただきました皆様ありがとうございました。

DSC00585.jpg



尺八の音程 [今日の工房]

このたびの東日本大震災で被害を受けた皆様、そのご家族、ご親族の皆様に、心よりお見舞い申し上げます。

音程について
前回歌口の形状についてお話ししましたが、今回は音程について書きます。
そもそも音程はどのようにして決まるかというと、3つの要素があります。
歌口エッジ部の深さ、指穴の位置、内径の大きさの三つです。

工房で尺八の製作にあたっては工房の規格に沿っておおよその歌口の形を決め、指穴を開けます。そして管内に地入れ後、開けた指穴の位置で正しく音程が出るように内径を削りだしてい行くのです。ですので内径はほぼ同じような広さになります。時に竹材の太さにより指穴や内径を調整し、それに歌口の深さも連動して微調整を重ね、平均して442hzの音程になるよう作ります。ただし、季節や吹く人の息の強さにより音程は上下しますので、先ずは製作者が吹いた場合の正しい音程になりますが……。
いったん完成した尺八は音程が変えられないと思っていたというお客様がいらっしゃってびっくりしたことがあります。買った尺八の音程が低く、先生よりカルようにして吹きなさいと指導され四苦八苦、かわいそうです…….。

それでは歌口や指穴など各部分がどのように音程に関わっているか見てみましょう。

歌口は音の出るところですから音程に関係するのは分かるとして、どの部分かというと歌口前面にはめ込まれている琴古や都山のエッジ部分ですね。吹き口として斜めにカットして出来た窪みの深さが浅いと音程は低くなり、深いと音程は高くなります。流派や年代、製作者によってもかなり深さの設定が違い、後ほど説明する内径や指穴との関係から一概には言えませんが1mmの深さの違いで20〜40centくらい音程が上下します。
これはメリカリの技法というほどもない尺八では当たり前の音程操作で次のように説明されます。

メリ(エッジに唇を近づける):
この部分の面積を小さくして息の流速に抵抗を加え音程を下げる=エッジの窪みを浅くする
カリ(エッジから唇を遠ざける):
この部分の面積を大きくして息の流速にかかる抵抗を少なくし音程を上げる=エッジの窪みを深くする

実際に歌口の上の部分にビニールテープを重ねて貼り擬似的に歌口エッジ部の深さを変えてみたのが以下の写真です。
歌口深3mm.jpg盛り3mm.jpg

都山の歌口は3mmほどの深さで音程が442Hzで−20centと低めでしたが、テープを貼って1mm近く深くすると、最大で+30cent上がって平均20cent高めの音程が得られちょうど良い音程となりました。ただし、音程が全部一律に上がるかというとそうではなくて、歌口に近い裏孔が一番高く上がり、4孔→3孔→2孔→1孔→筒音の順番で上がり方が落ちてきました。適度な深さが得られたのか音量も増し、メリカリが非常にし易くなって音程以上の効果があるようです。ただ、3孔(チ)などは元々高め(+10cent)だったので、強く吹くとものすごく上がってしましました。もし歌口をテープのように加工すると、次に説明する指穴の修正も必要になってきます。
歌口テープ①.jpg歌口テープ②.jpg
歌口深4mm.jpg盛り4mm.jpg

琴古の歌口は4mmの深さがあり、鳴り易く、音程も442Hzで+10centと吹奏には問題ないのですが、やはり同じように1mmほど深くすると最大40centも上がり、今度は風息が混じり吹きにくくなり、メリが困難になってきました。深ければ良いという訳では無いようです。またその逆に歌口を削り3mm以下の深さにすると、詰まったような音になり、音量が落ちてメリが出にくくなる傾向が見られました。

それともう一つ、歌口の深さと顎当たりの関係を次の図に示します。

歌口深さと顎当たり.jpg

上記のように歌口を深くする時に顎当たりの角度を気をつけないと深さは適切でも、かえって吹きづらくなることがあります。
「歌口が深い時」の顎当たり角度2種を見ると、水平の顎当たりでは息の角度が勾配を増し最深部までの距離も遠くなって音が切れやすくなります(緑の線)。角度が傾斜している方が息の角度や最深部までの距離が適切で安定して音が出るようです(赤い線)。
「歌口が浅い時」の顎当たり角度2種では、水平の顎当たりの方が息の角度が適切で吹きやすいのに比べ、顎当たり角度が急だと最深部に向かって息が上向きになって吹きづらくなりました。
このことから、歌口エッジ部の深さと顎当たり角度は連動していて、エッジが浅ければ顎当たりは水平に、エッジが深ければ顎当たりは傾斜をつけるのが良いようです。

さて、次に指穴位置と音程の関係です。
以下に掲げる図は左側に歌口があり右(管尻)に向かって指穴が並んでいます。当然歌口に近いほど音程は高くなります。
指穴位置大きさと音程.cwk-(D.jpg

図①は同じ音程でも指穴の位置が歌口に近ければ穴は小さくなり、歌口から遠くなれば穴は大きくなるという図です。図②は同じ位置に穴が開いている場合、穴が小さければ音程は低くなり、穴が大きければ音程は高くなるという図です。
歌口のところで説明したように、開口面積が小さくなればなるほど抵抗が生まれ、音量音程が小さく(低く)なり、逆に開口面積が大きくなれば音量音程は大きく(高く)なるのです。ツメリ(ツの半音)リメリ(ハの半音)などはこれを利用して音程を作っているのですね。

さらに、実際に尺八を作ると指穴の深さによって音程が高めになったり、低めになったりします。
図③で見るとおり細い尺八でちょうど良い音程が得られている時、それよりさらに太い尺八で尺八を作ると指穴が深くなり、音程が低くなります。そこで指穴の内側を歌口方向へ削ったり、指穴自体を大きくしたりして音程を合わせる作業をします。音程が高い場合はこの逆に管尻方向へ穴を埋めて下がるようにするか、最初は小さめに穴を開けておいて製作しなが大きさを調整するかします。ほぼ全ての製作時にこの作業はかかせませんね。製品ですから指穴を移動すると移動痕が残ってしまいますので商品にはなりません。太い尺八は要注意!

修理調整依頼の時はこの限りではありませんから、指穴の移動を含め、さらに首のところで切って全長を伸ばしたり縮めたりすることは常時行います。
音程の微調整は歌口、指穴など構造が分かっていればご自分で出来る作業の範疇だと思います。水道管などで実験しながら歌口と指穴位置大きさの関係を習得されることをお勧めします。

最後に内径と音程の関係です。
江戸時代にほぼ姿形が決まってきた尺八は、本来管内に何も細工されない地無し管だったと思われます。
竹を掘り、節を抜き、歌口を切って、指穴を開けただけの素朴な楽器ですね。しかしそれだけでは鳴らない尺八があったり、音程が合わない尺八もあったでしょう。そこで皆同じように鳴るために管内に粘土状の漆を塗り込め、削りだして一定の内径を作り出す技術が生まれました。
地無し管は管内の広さによっては1尺8寸の長さでも1尺9寸に近い低い音程になってしまうことがあります。
それでも細めの竹を選べば管内もちょうど良く1尺8寸(54,5cm)で音程も現代のチューナーでぴったりという尺八はあります。

チューナーも何もない頃どうやって指穴を決めたかというと十割法とか九半割法とかいって、尺八全長の2割近くの長さを算出し(全長×0,225)、それを管尻から1孔までの長さとするのです。そして2孔3孔4孔は1孔より全長の1割の長さに均等に開けます。最後に5孔をその1割の5分4前後の位置に開けるという誰が考え出したか複雑な算出方法ですが3孔(チ)や5孔(裏穴)が高くなります。
明治以降管内に「地」を入れて内径を加工するようになり、地無し管よりは管内の径が狭くなります。
管内の体積が小さくなるのですから音程は上がってきますね。
そのため次の表に見られるように明治以降現代までだんだん全長は長くなり、指穴の位置が下がって来ています。
指穴配列表.cwk-(SS).jpg

つまり管内が狭くなれば音程が上がるので指穴は下がり、管内が広くなれば音程は下がるので指穴は上がります。なのに指穴は地無し管に近い位置のまま管内を狭く作れば音程は高くなってしまうので、指穴を小さくし、歌口は浅くすれば音程は上がりません。しかし、しかし音量が無く鳴りづらくなることもあるのです。

広い内径.cwk-(DR).jpg

最後の図は黒い線で示したグラフは現在一般に製作されている尺八の標準的な内径で、赤い線は琴古の戦前の演奏家にして製作者三浦琴童作のの尺八内径グラフです。赤い線の尺八は1尺8寸の長さに足りなかったり、管尻や指穴が極端に大きくなっていたりして音程を確保するのに苦労した形跡があるものを見たことがあり、良く鳴る尺八として戦前に家1軒建つほどの値がついたとか聞いたことがあります。

指穴対比写真.jpg
指穴対比写真
上2本は琴古の古い尺八、一番下は私の使用している尺八


尺八の歌口構造 [今日の工房]

年賀用.jpg

新年明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
工房船明も御陰様をもちまして3年目を越しまして皆様方の多大なるお引き立てに感謝感謝の毎日です。
昨年は尺八改造の依頼が特に多く、依頼者との細かい打ち合わせの中でいろいろなことを発見、再確認出来た年でもありました。
そこで特集として尺八の構造から見た、私なりの「良い尺八」とは何かを解説してみたいと思います。
一口に良い尺八と言っても、流派や再現する音楽のジャンル、奏者の好み、さらには尺八に対する考え方までその評価方法は様々であり議論の分かれるところです。
ですので今まで修理調整してきた経験から悪い構造の尺八を様々な角度から検討比較することで良い構造をもった尺八とは何かを自分なりに考えてみようと思います。

今回は歌口の構造を見てみましょう

尺八は管楽器の中でその楽器の大きさの割に歌口が大きい構造をしていると言われます。
フルートやケーナのように尺八と同じような吹き方で音を出すエアーリード楽器を見てもその吹き込み口の大きさは唇の大きさを超えません。尺八は歌口の入口径が極端に大きいのです。
ここに首振り三年などと音を出すのが難しいといわれる原因の1つがあるようです。
音を出す原理としては管の端に隙間を作り、そこへ向かって息を吹きかけ空気を振動させて音が出るのだと聞いています。
歌口の入口を唇でほぼ塞ぎ、斜めにカットしたエッジ部に唇のノズルを近づける作業が楽に出来れば尺八は音が出るのですが、入口径が大きいと唇で塞ぐのが容易でない、エッジ部にもノズルが届きにくい状態になってしまうのが「音が出にくい」原因となるのです。
つまりは入口径をいかに適切に成形するかということなのでしょう。
多くの人が歌口を削った経験をお持ちと思います。
顎削り.jpg図1
入口縮め.jpg図2
図1のように顎当たりを削るのが一般的で、顎当たりが邪魔に感じるという理由の他に、エッジが遠く感じるためこのように加工するのですが、入口径を縮めなければ入口を塞ぐ面積もエッジ部との距離も変わらないので、感触は変わるとしても効果は多く得られないようです。

次に入口径が適切として、空気が振動する歌口エッジ部の位置がカットの仕方によって変わるというのが図3です。
歌口カット角度図2.jpg図3
舌面角度は何度が適切かと質問されて、23~25度くらいの角度が適切かなと答えると結構垂直に近いですねと驚かれる場合があります。琴古流の尺八では30度以上の鈍角にカットしてあるものあり、音が柔らかくなるとかメリが出やすいとかいろいろ聞くことがあります。
しかし構造的にはカット角度によりエッジ部最深部の位置が、鈍角では歌口カット位置より遠くなり鋭角では近くなり、その位置によって音の出やすさが変わると言えるでしょう。
音を出すときノズルは歌口カット位置の外に出ることはないので、カット位置より手前でエッジ部を探ることになります。
その時、出来ればカット位置に近いところにエッジの最深部がある方が位置確認が容易で音も出しやすいと考えられるのです。
歌口エッジの深さや顎当たり角度とも関連しているので一概には言い切れませんが角度の違いにより音が出やすくなることは確かなのです。

歌口顎当たり角度.jpg図4
顎当たり角度の違いでもエッジ部までの距離に差が出るというのが図4。
顎当たり角度が水平な時より傾斜がある時のほうが唇(ノズル)の位置が少しエッジ部に近づきます。

これらを総合して径を変え、カット位置を変え、角度を傾斜させると図5のような歌口が出来上がります。
歌口完成形.jpg図5

竹材の太さも影響ありそうです。フルートのように横に構えれば例え竹材が太くても顎の接地面はそれほどではありませんが、縦に当てると太い竹はまともに顎に抵抗を感じます。そこで太さにより歌口のカット位置を変えたのが図6です。こうすることにより顎当たりの感触は同じになり太さによる抵抗感が無くなるのです。

歌口カット位置.jpg図6

このように歌口前面のカット位置は顎を乗せる後ろからを基準にすれば太さによる違いは無くなると思うのですが、そうしない理由の1つに、あまりカット位置が中心に寄ると、斜めにカットした舌面に穴が空くのです。商品として傷物扱いにする製作者もおり、楽器としての性能よりも見た目を重視したおかしな話ですね。


他に竹材のいびつな形そのままに歌口入口の形状が曲がって製作されると、まっすぐに尺八を構えていても何だか歌口が斜めに曲がるような気がしませんか?
このような尺八は外側も内側も成形してあげるのが親切です。図7
歌口のゆがみ図.jpg図7


時に見られる歌口の悪い磨き方の例です。図8
歌口盛り図.jpg図8
顎を乗せる歌口上部をすり鉢状に丸みがかって磨いた尺八です。顎に当たる感触がソフトで吹きやすいと言う人もおり、全て悪いとは言えませんが図のように丸みの頂点からの径を見ると入口本来の径より大きくなり、結果的にエッジが遠くなってしまう場合があるので極端に丸くするのは止めましょう!

もう一つ、これは歌口形状とは関係ありませんがエッジ部の内側にボッテリと漆を厚く塗る、又は内側にカーブするように成形してある尺八は鳴りが柔らかくなる利点もありますが、何か鈍い、伸びの無い、詰まった音になることがありますので注意が必要です。

エッジ部内側.jpg

当たり前のことですが音が出るのは歌口の部分しかありませんから、全体的に音が出にくい、音程が不安定、メリカリが出来ないなど発音に疑問があるような場合は歌口の形状を改善することから始めることをお勧めします。全部の音ではなく特定の音が出にくいのであれば管内の構造に問題がありますが、歌口が原因の場合尺八の修理調整は何度やっても直らないことがあります。用心用心……..



竹取りの話 [今日の工房]

竹掘り.jpg

尺八製作には先ず竹材の仕入れが欠かせませんが、ちょうど良いサイズと姿形の竹材は業者から買うと値段が高く、大量に仕入れるためにはまとまった現金も必要なので頭の痛い所です。日本中、竹林はあちこちに見られその気になれば自分で掘ってこれそうな気もします。そこで体験を兼ねて竹掘りに行ってきました。友人の紹介で長野県某所にて先ずは試し堀り。持参した道具はノコギリ、鍬、鉈、金槌などで、根を鉈や鍬で切り、幹を身長くらいの高さで切ってしまいます。そして竹をつかんで左右に体重をかけ竹を揺り倒して掘り出します。
軽井沢竹掘り.jpg軽井沢竹堀②.jpg
堀る手順がまだ慣れなくて根を切るのが上手く行きません。中途半端に根を処理すると根がくっついたままで取れません、時間ばかりかかって汗びっしょり。とにかく掘るのがこんなに重労働とは!
10本くらい掘った所で慣れてきて、掘るのは早くなったけど、疲れで全身がだるくなってきました。竹の生えている所も足場が悪く、斜面が多かったりして体を維持するだけでも体力を奪います。一緒に掘りに来てもらった友人と二人で掘っているとはいえ普段動かさない筋肉総動員のこの作業はお金に換算すればやはり高いものになるのかもと思いました。そして指穴の位置間隔や太さなどちょうど良い竹材をと思うのですがそんな都合の良い竹が生えている訳がありません。きれいな模様の入った堅そうな、きめの細かい肌の竹はそんなに簡単には見つからないんですねえ。いろいろな地域、場所を探さないと宝の山は出てきそうにありません。
軽井沢野仏.jpg

昨年掘った時は時期にもよるのでしょうか、10月でまだ暖かく竹が水を吸っていて掘るには早過ぎました。その後寒くなってからも掘ってみましたが生えている場所によっては土壌に水分が多過ぎたり、寒くてもう凍り付いていたりして竹に皺がよっていたりと竹材としては適さない場所もありました。
竹掘り2.jpg

今年11月は工房のお客様の紹介で同じ長野県の違う場所で掘ってみました。けっこう良い竹材が取れましたが、疲れ方は同じで簡単なものではありませんでしたね。
また、竹材として優良なものはやはり関西や九州のような暖かい地域の方がいいのかな?どなたか良い場所をご存知でしたらお知らせ下さい。

三曲あさおの会員で新百合ケ丘駅近くにお住まいの井上さんから「家の裏山に竹が生えているのですが尺八に使えるかどうかみてもらえますか?」とのお誘いがあり行ってみました。
こんな市街地の真ん中にも真竹はあるんですね。
井上宅竹林.jpg
家を取り囲むように斜面が迫り、竹林が一面に生い茂っています。孟宗竹や篠竹に混ざって真竹がありました。節間隔が短くて短管にはなりますが1尺8寸の寸法がなかなかありません。
でも麻生区周辺にはこんな竹林が多く点在しています。もしかしたら宝の山があるかも.....。
井上宅竹堀②.jpg井上宅長け掘り①.jpg
竹掘りのあとの一杯はまた格別で格別で.......飲み過ぎて翌日は筋肉痛と二日酔いのダブルパンチに一日中のたうち回っておりました。

竹掘り3.jpg


晩夏の宴 [今日の工房]

晩夏の宴
8月最終の土曜日に工房で暑気払いを兼ねてカラオケ尺八を楽しみました。
お酒を飲みながら尺八を吹くなぞ何と不謹慎な、もっと真面目に尺八に取り組め!と怒られそうですが、まあお待ちください。カラオケというこの日本人が発明した音楽を楽しむ方法は、初期のプロ用からお店の享楽用、さらに個人で楽しむ物にまで進化して、今や歌から楽器からおよそ音楽に関して練習する際に無くてはならないアイテムになっています。
楽器店に行って楽譜の棚をのぞくとボーカルや各種楽器ごとに伴奏カラオケが付録として付いている楽譜が多数置いてあります。クラシックからポピュラー、映画音楽、ジャズ、テレビ主題歌なんていうのもあり、ピアノやギターの伴奏からフルオーケストラの伴奏まで至れり尽くせりの内容です。中には交響曲の構成楽器全てが一つずつ抜けている練習用カラオケもあり、自宅にいながらオーケストラの一員として演奏に参加している気分になる豪華なものです。
これほどカラオケが普及したのもデジタル音源でいとも簡単に様々な音が作れるありがたい時代になったからですね。私も邦楽の現代曲をパソコンで五線譜に打ち込みそれぞれ各パートに箏・尺八など音を割当て、デモテープを作ったりカラオケとして練習に使うという技術覚え、いろいろと利用してきました。
なぜカラオケは練習用として効果があるのでしょう?
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カラオケはほとんど人工的に作られた電子音で、音程は442Hzで統一されているというし、機械ゆえもちろんリズムは一定ですね。メトロノームの無機質な音に合わせるよりは伴奏としてメロディーを楽しみながら表現を磨くことが出来る優れものといえます。

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実は自分自身リズム感が無くて尺八を習いたての頃は規則正しく刻むことはおろか8分音符、16分音符と音が混みいってくると走る走る!箏や三絃の音が裏拍で入るとすぐ連られてリズムが狂ってしまい先輩や先生からはよく怒られていました。
音程計測のチューナーが手に入ったからすぐに音程が良くなる訳でもなくて、尺八の音が箏より高いのか低いのか演奏最中には全く把握出来ていなかった自分ではありました。
どうしたらよかんべ??と悩んでいると当時鈴慕会で一緒だった林雅寛君や親友の古屋君がカラオケをやりなさいと私を居酒屋やスナックへ導くのです。飲んべえですからそのような場所は大好きですが歌はヘタクソで、ただただ吠えている有様でした。そこから歌の指導が始まったのです。

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声の強弱、声の伸ばし方、リズムの取り方、息継ぎ、歌い出しの部分やさびの所の表現、などなど。慣れてくると3〜4分の短い曲ですからカラオケの伴奏全体が見えてきて、リズムを数えなくても流れに乗ってくることが体感してきます。伴奏の音に歌の音程を合わせる練習として、わざと歌っている最中に伴奏の音程を変えて歌ったりしてみました。カラオケのあるお店は当然他の人もいて言わば観客として考えれば人前で演奏することの練習にもなったような気がします。他人の歌い方にも得る物はありましたね。
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また、知らない曲でも章節の頭が把握でき、歌いだしの場所や間奏の長さまで分かるようになってきました。それに伴って尺八の吹き方や音程、リズムが少しずつ良くなっていきました。現代曲の練習や表現方法はこの若いときのカラオケ修行?がかなり役に立ったかなとは思いました。歌も尺八も息を吸って音にして出し表現するのですから同じ練習になるのですね。そして何よりの収穫は良い歌、楽曲をたくさん知ったことです。良い歌は難しいとか複雑な作りになっているのではなくシンプルなのです、覚えやすいのです、心を打つのです。歌心を鍛えられました.....なーんちゃって
かなり金は使いましたが同じ酒でもただ飲んでいるよりは有効な時間を使ったかな?と納得する次第。

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そんな体験を皆さんにもと余計なおせっかいで企画したこの晩夏の宴、準備は万全に整えました。先ず1ヶ月ほど前に課題曲として数曲を選び楽譜と音源を渡しておきました。
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※この「シクラメンの香り」は「レ」から始めるほうが尺八の運指には慣れがあるので1尺6寸で演奏をと思いましたが、ツの半音(ツのメリ)やチ半音とハ半音が重なり、7孔で演奏するならば良いのですが5孔の時はツの中メリを使用するこの音階のほうが表現としてはベストかなあ......

歌謡曲から「北国の春」「シクラメンのかおり」「見上げてご覧夜の星を」「涙そうそう」「川のながれのように」ビートルズナンバーから「イエスタディー」ジャズボーカルより「テネシーワルツ「虹の彼方へ」「星に願いを」「スターダスト」など有名な曲ばかりです。歌謡曲はロツレチの譜面に翻訳して渡し、ジャズ編は五線譜を渡して自分で縦譜にするか、五線の下にロツレチを書くか、読む練習として何も書かないか等お任せにしました。

課題としては歌謡曲など知っている曲はおおよその感覚でリズムを取っているのでここは先ず第一に「楽譜に忠実に吹く」ことを狙いました。1拍・8分音符・16分音符、3連符や付点8分音符、タイやスラー、スタッカートなどを正確に刻むことですね。意外とこれが難しい!
次に今度は逆にリズムを変えてみたり長さを変えてみて歌の表現を楽しむことを課してみました。ジャズなど8分音符を付点8分音符のように弾んでスイングするように吹いたり、さびの部分を誇張して長めに吹いたりと技を使います。
また、北国の春などは譜面を見ずに吹いたり、「チ」から始まる音をカラオケを離れて、出だしの音をロ・ツ・レなどから始めてみたらどうなるかという音を探る練習にまで発展させると耳の訓練には効果的であるとか........


※「イエスタディー」のカラオケです。さて始まりは?繰り返しは?分かるかな?(乙のレから始まります)

もう講習会的な展開を期待したのですがお酒がおいしかったので、だんだん酔ってくるにつれ皆さん練習を忘れて楽しんでおられました。近所の皆様お騒がせいたしました。

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裏穴(ヒ/ヒの五)の調整 [今日の工房]

裏穴の音程が乙甲で違う、甲になると音が出づらい、割れてしまう、という症状を改善する調整をお話ししましょう。短いサイズの尺八(1尺6寸〜1尺3寸)によく見られる症状で吹き方が原因ではなく、内径と指穴位置の間違いがこういう症状を引き起こします。
では尺八の音程はどのような構造として説明できるのでしょうか?

尺八の全長の長短で音程が上下するように、指穴の位置が歌口から近い遠いでその指穴の音が上下します。同じ位置であれば指穴の直径が大きければ音程は上がり、小さければ下がります。内径では管全体の内径が大きければ全体が低くなり、逆に小さければ音程は高くなるのです。
つまり音程調整は指穴の位置と大きさを決め、それに合わせて内径の大きさを決めて調整するわけでどちらかでも間違っていると不安定になったり、甲乙でバランスが取れない症状を引き起こします。
内径の構造を表したグラフで各音の調整ポイントが歌口より指穴までの長さの1/2・1/4のところにあるとお話ししましたが、甲乙のバランスはまさにこの両方の径の大きさの比で決まるのです。
5孔穴音程図.cwk-(DR).jpg図1


図1のグラフは1尺8寸の裏穴の音程や鳴りに不具合がある時の内径構造と指穴の位置を表しています。
症状としては他の音に対し裏穴の乙の音の音程は高め出るのに対し、甲の音の音程が低めになる(または音程は合ってはいるものの不安定)。
甲の音が薄い、強く吹けない、割れるなど演奏に支障をきたす場合が多いことです。

これは歌口に近い1/4の部分の内径(甲の領域)が大きく、先ずこれで甲の音程が低めになるのですが指穴位置が正常な場合と比べると高いので不安定ながらバランスは保っています。しかし1/2の部分の内径(乙の領域)は正常なので乙の音程は高くでてしまいます。この時、指穴だけを下げると甲の音程だけが低いアンバランスになり、1/4部分の内径のみを狭くすると甲乙ともに音程が高くなってしまいます。
従って調整は甲乙両方の音程が同じような高めの音程になるよう1/4の部分の内径を狭くし、その後指穴を他の音と同じ音程になるよう位置を移動するという手順になります。

注意点として指穴の大きさがあります。尺八本体が太くて肉厚の場合、指穴を大きめ(11mm以上)にしないと音程が届かない時があります。かといって下げる位置を中途半端ににすると音程の不安定感が残ります。短いサイズの尺八では4孔と5孔の位置も接近するため、この周辺の径を調整する必要も出てくる場合があります。
ちなみに私の工房での裏穴の位置は太さにより上下しますが1尺8寸管で歌口より228〜231mm、1尺6寸管で201〜204mmで設定しています。

◯指穴移動作業(竹の粉を充填し、アロンアルファで固め、研ぎ出して穴をあけ直す)
穴移動⑦.jpg穴移動⑥.jpg穴移動⑧.jpg穴移動③.jpg穴移動②.jpg穴移動①.jpg

鳴り方の障害はこの内径の調整と位置移動でかなり改善されますが、「地無し管」や「広作り」の尺八では内径全体が広い場合が多く大甲音などはかなり出にくいので裏穴の鳴りも影響を受けます。このような尺八や修理をしないで甲の裏ヒの音程を上げる裏技として1、2孔の運指を一工夫する方法があります。
運指ヒの五①.jpg

都山流では「ハ」は1、2孔を閉じます。「ヒ」も同様に閉じたままです。
琴古流では「ヒ」(都山のハ)も「ヒの五」(都山のヒ)も甲では1孔閉じ、2孔は開けて吹きます。
この琴古流の手法で裏穴「ヒ」を出してみましょう。かなり出易くなります。
運指ヒの五②.jpg運指ヒの五③.jpg

さらに1孔開けて、2孔を閉じて吹いてみましょう。「ハ」(琴古流のヒ)は半音上げって「半音のヒ」(琴古流のヒの五の中メリ)となりますが、裏「ヒ」(琴古流のヒの五)は少し音程が上がるだけで音も出易くなります。
裏穴の音に支障が無くても、「弱音で裏ヒを伸ばしたい時」や「短い尺八を使用する時」などこの1、2孔閉開を併用すると表現にぐっと幅が出ますよ!


外吹きと内吹き [今日の工房]

吹き方による違いとしてよく言われる「外吹き」「内吹き」を簡単に見分けるのと同時に、吹き方の訓練としてお勧めしたいのがティッシュペーパーによる吹き流しを使う方法です。

先ず、「外吹き」「内吹き」ですが基本的には吹き方として「外吹き」のみがあり、ある訓練の結果「内吹き」になってしまったか、中途半端な吹き方なので内外に息が分かれてしまい、時に内に強く息が入る状態を内吹きと言うと定義できます。
これは息を歌口の半円状のくぼみに当てて音を出す動作を考えると、管内に息が入る空間と外の空間の面積の比較でいって外に息を出す方が容易であり、メリカリ、強弱など音楽上の操作を考えても外に吹き出す方がより楽だと思いますね。

何故中に息が入る吹き方が起こってしまうのでしょう?
一つにはの歌口径の大きさが関係するでしょうか。尺八は歌口入り口を顎と唇で塞いで息が漏れないようにし、息の出口をエッジ部分一点に集中して空気を振動させ音を出す構造です。入り口径があまり大きいと塞ぐことが大変になります。塞ぐだけで顎のかなり大きな面積を占めてしまい、唇がエッジ部分に届きにくい人もいます。息が外に出るよりも中へ向かわざるを得ない状況に歌口のせいでなってしまったのでしょう。息がシュルシュルと音を立てたり、弱々しい音しか出ない人は、息が出たり入ったりして効率よく空気の振動が起こっていないのです。
また、私のように唇を皺が寄る程きゅっと締めて吹く人は唇の上下の擦り合わせも堅く、一点に息を集中させやすい反面、管内に息が向かってしまうと容易に修正出来ないので、いつのまにか内側に息を入れる吹き方を訓練してしまったのだと思われます。
内側に強く吹き込むことが出来る人には共通して練習バカと思われる傾向があり、吹きにくいと感じてはいても練習で克服しようと一生懸命吹き方をトレーニングしてしまったのですよ、きっと.....。

内外試し紙①.jpg内外試し紙②.jpg内外試し紙③.jpg
では吹き流しの作り方は写真の通り、細めにちぎったティッシュペーパーをテープで歌口舌面に貼付け吹いてみます。外に勢いよく流れれば外吹き、たなびかないと内吹きです。

外吹き.jpg
内吹き.jpg

ただし、内吹きでも甲になるとほとんどの人が外吹きになってしまいます。尺八を吹く8割くらいの人に見られるのが乙のロだけ内吹きになるという事実です。やはり筒音に異常な執着というか美意識というか力が入ってしまうんですねえ。また、ほぼ外吹きなのですが、乙のロに入る一瞬、息が内外混ざりティッシュペーパーがその瞬間止まり、すぐまたたなびき始めるという現象を起こす貴方!他の音でも曲の演奏最中に起こるようですから要注意、これが演奏の表現に微妙に影響していますよ!
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尺八修理その9 尺八管内構造と調整方法 [今日の工房]

都山流の「ハ」琴古流の「り」の調整についてお話ししましょう。
前回説明で用いました内径グラフで症状や調整ポイントを説明します。

内径説明グラフ.cwk-(DR).jpg
先ず、図1のように歌口入り口の径が大きい場合を考えてみましょう。この形状は歌口の形で判別がつきやすくまた、手が届く範囲なので対処方法が手早く出来るでしょう。写真で歌口径の大きさを比較しました。右側の尺八は親指がスッポリ入る程大きく最大径は23mmあります。こうなるとこの歌口に合う人、慣れることが出来る人は限られます。唇を乗せた時に歌口が遠いのでモジモジと歌口を探ることになります。
歌口径①.jpg
グラフでは理想の曲線より入り口の部分のみが大きくカーブを描いているので大甲音が低めな音程になったり、ハ(リ)が上ずったような音になります。これは歌口より、ハ(リ)の指穴までの半分の位置が、調整ポイントなので歌口近辺が広いと相対的にこの部分の体積が狭いことになり音程が上ずるようになるためです。、ハ(リ)に限らず乙音のヒハチレ(ヒの五リチレ)全体に上ずる場合もあります。
歌口径②.jpg歌口径③.jpg
修正としては先ず歌口の入り口径を縮めてやる必要があります。写真のようにビニールテープで入口径の縦を狭くしてやります。よく「息返し」とかいう言われ方をしますね。息がこのテープの下で回転して音が良く出るなんていう解説を聞いたことがありますが、何のことはない、入り口径が縮まって歌口エッジ部分に唇が近づくことが出来るようになった結果「吹きやすく」なったのです。
さて歌口を調整したら内径に移ります。尺八製作で「試し紙」という調整ポイントを探るやり方をお教えしましょう。

試し紙①.jpg試し紙②.jpg試し紙③.jpg試し紙④.jpg試し紙⑤.jpg
写真のように線引きと同じくらいの幅の新聞紙を適度な長さに切って2枚重ねます。二つに折れば4枚重ねです。水に濡らして管内のポイントに置くわけです。厚さ長さはその都度調整内容により変わります。極端に大きく厚くしてみて徐々に薄く小さくしていくとちょうど良いところで音に出るようです。
このように濡らした新聞紙で各場所を探りながら埋めるポイント決めますが,逆に削ることもありえます。この入り口だけなら埋めるだけのほうが手間はかかりません。
しかし図2のようにハ(リ)のポイントその場所が狭かったり、時に管内全体に狭い径の場合は、さらに狭くするようになるので音は上ずらない代わりに詰まったようになる場合があります。その時は削る方が解決になります。
図3は、ハ(リ)のポイントより下全体が広い場合です。このような内径の尺八は、ハ(リ)はもちろん上ずりますが乙のレツの音程が下がり気味になり筒音が安定しない傾向にあります。試し紙で対処する時は下管全体に紙を置いてもいいのですが、写真のように上管4孔下と下管2孔周辺に置いてみましょう。かなり安定して来ると思います。
試し紙⑥.jpg
※分かりやすいように外側に新聞紙を貼ってみせています(念のため)

グラフではかなり大きく管内の径を書いてありますが実際は0.2〜0.3mmくらいで広い場合が多く、紙の位置をあちこち動かしていくと、かなり狭い範囲で効率よく響きが変わることがあるのです。

尺八管内が磨き立てられていてピカピカの尺八があります、一方地無し管のように管内は節が残っていて凸凹な尺八があります。1尺8寸前後のサイズの尺八では管内のポイントが効率よく形作られていれば、どちらの作り方でも鳴り方はほとんど変わらない尺八が出来ます(音質は微妙に違いますが)。従って調整方法も基本的には皆同じと言えます。狭い広いでオクターブの音程に違いが出る、各ポイントの狭い広いで鳴り方が変わる、その現象をじっくりと聞き分ける訓練が大事なのです。もちろん吹奏能力(演奏能力)も必要ですが....。

乙のレのポイントに貼る
試し紙⑦.jpg

甲のチのポイントに貼る
試し紙⑧.jpg




尺八修理その8 割れ対策 [今日の工房]

割れ修理
本格的な冬に突入しまして、これから尺八にとって恐いのは「割れ」ですね。
事実冬になると修理の半分は割れ修理の依頼となるのでもわかります。
割れの原因としては乾燥があげられますが、それよりも寒暖の差が激しい所に放置したというのが多いようです。暖房のある部屋に置いて、寝る時には暖房を切ってしまうため朝方になって部屋が冷えて尺八がとても冷たくなってしまう、というような状態を連続で続けると竹が収縮膨張を繰り返すので耐えきれず割れるという過程ですね。早春の時期、暖かくなってきたその日の翌日突然10度以上も気温が下がったときなども要注意です。
また、購入して間がない新しい竹などは工房の湿度、温度に気を使った環境から急に何も保護されない環境になるため割れる確率が高くなるのはよく言われます。しかしながら30年も使用した真っ黒になった尺八、戦前の古管銘管などがある日突然割れるということがあります。これは予防のしようがありませんね。

予防としてはビニールの袋に常時入れておく、寒暖の差が無いよう心がける、保管する際には尺八が数本入るくらいの大きめの密閉容器(タッパーのような)に水を張るか紙おむつのような水分を吸収する素材に水を含ませて入れておき、その中に入れておきます。油を表面に塗る方もいますがあまり頻繁に塗ると油が飽和状態になってヌルヌルして演奏に支障が出るので1ヶ月に1度くらい塗るだけでいいでしょう。

割れ修理前①.jpg割れ修理前②.jpg割れ修理前③.jpg

さて、割れてしまったらどうしましょう?
表面に浅く小さな割れであればアロンアルファなどの瞬間接着剤を塗って様子を見ましょう。この時点ですぐに修理に出せば軽症で済みます。テグス糸で巻くのも方法ですが緩まないように巻くのは技術が必要です。簡単なのはビニールテープ(絶縁テープ)を思い切り引っ張りながら3重くらいに巻き付けると割れの予防ととりあえずの割れ止めになります。

割れ修理前④.jpg割れ修理前⑥.jpg割れ修理前⑤.jpg

そしてばっくり!と割れてしまった尺八を見ると、心臓に悪いというか自分が悪くないと思いつつも変な罪悪感にさいなまされていやーな気分になります。即修理に出さないと演奏が出来ませんさてどうしましょう?こんな時あわてずに先ずは堅く絞った濡れタオルに半日巻いておきます。すると見事に割れ目が見えなくなるまで元に戻ってしまいます。湿度を与えて竹の繊維を膨張させるのです。そして「管内の割れ目」に沿ってアロンアルファを流し込むとスーと割れ目に吸収されますのでそのまま続けて飽和状態になるまで流しこんで横に寝かせ10分程放置すると割れが管内で固まり1〜2ヶ月はこれで保ちます。私の実験では最長3年割れが止まり、再度割れたのは最初の場所ではなく他の場所でした。ただしこれは割れてからなるべく早い時期に処置しないと奇麗に収縮しないし接着剤の効果も半減します。

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この尺八の管内には大きく亀裂が残っているので、この場合は一度亀裂を埋める必要がある

このように大きく割れても竹の状態をもとに戻すような処置をすれば性能はほとんど変わりません。でもなるべく早く専門家の修理に出しましょうね!ここで割れ修理に出す時の注意、割れを押さえるため糸を巻くのですが、糸巻きの溝を深く切ると管内に圧力がかかり内径が変形しますので、なるべく溝は浅くするよう依頼しましょう。(本当は表面に巻くのが一番力がかかり、内径に影響しない)管内を覗いて割れ巻きの部分が極端に波打っている時は要注意です。(多少は波打ちますが....)


昔は割れると性能が著しく損なわれ、「買い替えしかない」と脅されて保管に気を使ったよですが、それはもちろんとして上記のように割れ補修の際に管内の形状を変えないように修復すればよいだけなのです。また、製作者にとっては修理が面倒なのでどうやら買い替え促進の口車のようです。また割れ巻き1巻きにつき4万円などというとんでもない請求をする輩もいて、割れ修理には悪いイメージがつきまとってもいるようです。
割れないことに越したことはありませんが割れは一番起こりやすく一番演奏に支障がでるトラブルです。竹は割れるものと認識してその対処法を知っておいてほしいなと思う次第です。

割れ修理完成①.jpg割れ修理完成③.jpg割れ修理完成②.jpg


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