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尺八の歌口構造 [今日の工房]

年賀用.jpg

新年明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
工房船明も御陰様をもちまして3年目を越しまして皆様方の多大なるお引き立てに感謝感謝の毎日です。
昨年は尺八改造の依頼が特に多く、依頼者との細かい打ち合わせの中でいろいろなことを発見、再確認出来た年でもありました。
そこで特集として尺八の構造から見た、私なりの「良い尺八」とは何かを解説してみたいと思います。
一口に良い尺八と言っても、流派や再現する音楽のジャンル、奏者の好み、さらには尺八に対する考え方までその評価方法は様々であり議論の分かれるところです。
ですので今まで修理調整してきた経験から悪い構造の尺八を様々な角度から検討比較することで良い構造をもった尺八とは何かを自分なりに考えてみようと思います。

今回は歌口の構造を見てみましょう

尺八は管楽器の中でその楽器の大きさの割に歌口が大きい構造をしていると言われます。
フルートやケーナのように尺八と同じような吹き方で音を出すエアーリード楽器を見てもその吹き込み口の大きさは唇の大きさを超えません。尺八は歌口の入口径が極端に大きいのです。
ここに首振り三年などと音を出すのが難しいといわれる原因の1つがあるようです。
音を出す原理としては管の端に隙間を作り、そこへ向かって息を吹きかけ空気を振動させて音が出るのだと聞いています。
歌口の入口を唇でほぼ塞ぎ、斜めにカットしたエッジ部に唇のノズルを近づける作業が楽に出来れば尺八は音が出るのですが、入口径が大きいと唇で塞ぐのが容易でない、エッジ部にもノズルが届きにくい状態になってしまうのが「音が出にくい」原因となるのです。
つまりは入口径をいかに適切に成形するかということなのでしょう。
多くの人が歌口を削った経験をお持ちと思います。
顎削り.jpg図1
入口縮め.jpg図2
図1のように顎当たりを削るのが一般的で、顎当たりが邪魔に感じるという理由の他に、エッジが遠く感じるためこのように加工するのですが、入口径を縮めなければ入口を塞ぐ面積もエッジ部との距離も変わらないので、感触は変わるとしても効果は多く得られないようです。

次に入口径が適切として、空気が振動する歌口エッジ部の位置がカットの仕方によって変わるというのが図3です。
歌口カット角度図2.jpg図3
舌面角度は何度が適切かと質問されて、23~25度くらいの角度が適切かなと答えると結構垂直に近いですねと驚かれる場合があります。琴古流の尺八では30度以上の鈍角にカットしてあるものあり、音が柔らかくなるとかメリが出やすいとかいろいろ聞くことがあります。
しかし構造的にはカット角度によりエッジ部最深部の位置が、鈍角では歌口カット位置より遠くなり鋭角では近くなり、その位置によって音の出やすさが変わると言えるでしょう。
音を出すときノズルは歌口カット位置の外に出ることはないので、カット位置より手前でエッジ部を探ることになります。
その時、出来ればカット位置に近いところにエッジの最深部がある方が位置確認が容易で音も出しやすいと考えられるのです。
歌口エッジの深さや顎当たり角度とも関連しているので一概には言い切れませんが角度の違いにより音が出やすくなることは確かなのです。

歌口顎当たり角度.jpg図4
顎当たり角度の違いでもエッジ部までの距離に差が出るというのが図4。
顎当たり角度が水平な時より傾斜がある時のほうが唇(ノズル)の位置が少しエッジ部に近づきます。

これらを総合して径を変え、カット位置を変え、角度を傾斜させると図5のような歌口が出来上がります。
歌口完成形.jpg図5

竹材の太さも影響ありそうです。フルートのように横に構えれば例え竹材が太くても顎の接地面はそれほどではありませんが、縦に当てると太い竹はまともに顎に抵抗を感じます。そこで太さにより歌口のカット位置を変えたのが図6です。こうすることにより顎当たりの感触は同じになり太さによる抵抗感が無くなるのです。

歌口カット位置.jpg図6

このように歌口前面のカット位置は顎を乗せる後ろからを基準にすれば太さによる違いは無くなると思うのですが、そうしない理由の1つに、あまりカット位置が中心に寄ると、斜めにカットした舌面に穴が空くのです。商品として傷物扱いにする製作者もおり、楽器としての性能よりも見た目を重視したおかしな話ですね。


他に竹材のいびつな形そのままに歌口入口の形状が曲がって製作されると、まっすぐに尺八を構えていても何だか歌口が斜めに曲がるような気がしませんか?
このような尺八は外側も内側も成形してあげるのが親切です。図7
歌口のゆがみ図.jpg図7


時に見られる歌口の悪い磨き方の例です。図8
歌口盛り図.jpg図8
顎を乗せる歌口上部をすり鉢状に丸みがかって磨いた尺八です。顎に当たる感触がソフトで吹きやすいと言う人もおり、全て悪いとは言えませんが図のように丸みの頂点からの径を見ると入口本来の径より大きくなり、結果的にエッジが遠くなってしまう場合があるので極端に丸くするのは止めましょう!

もう一つ、これは歌口形状とは関係ありませんがエッジ部の内側にボッテリと漆を厚く塗る、又は内側にカーブするように成形してある尺八は鳴りが柔らかくなる利点もありますが、何か鈍い、伸びの無い、詰まった音になることがありますので注意が必要です。

エッジ部内側.jpg

当たり前のことですが音が出るのは歌口の部分しかありませんから、全体的に音が出にくい、音程が不安定、メリカリが出来ないなど発音に疑問があるような場合は歌口の形状を改善することから始めることをお勧めします。全部の音ではなく特定の音が出にくいのであれば管内の構造に問題がありますが、歌口が原因の場合尺八の修理調整は何度やっても直らないことがあります。用心用心……..



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