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裏穴(ヒ/ヒの五)の調整 [今日の工房]

裏穴の音程が乙甲で違う、甲になると音が出づらい、割れてしまう、という症状を改善する調整をお話ししましょう。短いサイズの尺八(1尺6寸〜1尺3寸)によく見られる症状で吹き方が原因ではなく、内径と指穴位置の間違いがこういう症状を引き起こします。
では尺八の音程はどのような構造として説明できるのでしょうか?

尺八の全長の長短で音程が上下するように、指穴の位置が歌口から近い遠いでその指穴の音が上下します。同じ位置であれば指穴の直径が大きければ音程は上がり、小さければ下がります。内径では管全体の内径が大きければ全体が低くなり、逆に小さければ音程は高くなるのです。
つまり音程調整は指穴の位置と大きさを決め、それに合わせて内径の大きさを決めて調整するわけでどちらかでも間違っていると不安定になったり、甲乙でバランスが取れない症状を引き起こします。
内径の構造を表したグラフで各音の調整ポイントが歌口より指穴までの長さの1/2・1/4のところにあるとお話ししましたが、甲乙のバランスはまさにこの両方の径の大きさの比で決まるのです。
5孔穴音程図.cwk-(DR).jpg図1


図1のグラフは1尺8寸の裏穴の音程や鳴りに不具合がある時の内径構造と指穴の位置を表しています。
症状としては他の音に対し裏穴の乙の音の音程は高め出るのに対し、甲の音の音程が低めになる(または音程は合ってはいるものの不安定)。
甲の音が薄い、強く吹けない、割れるなど演奏に支障をきたす場合が多いことです。

これは歌口に近い1/4の部分の内径(甲の領域)が大きく、先ずこれで甲の音程が低めになるのですが指穴位置が正常な場合と比べると高いので不安定ながらバランスは保っています。しかし1/2の部分の内径(乙の領域)は正常なので乙の音程は高くでてしまいます。この時、指穴だけを下げると甲の音程だけが低いアンバランスになり、1/4部分の内径のみを狭くすると甲乙ともに音程が高くなってしまいます。
従って調整は甲乙両方の音程が同じような高めの音程になるよう1/4の部分の内径を狭くし、その後指穴を他の音と同じ音程になるよう位置を移動するという手順になります。

注意点として指穴の大きさがあります。尺八本体が太くて肉厚の場合、指穴を大きめ(11mm以上)にしないと音程が届かない時があります。かといって下げる位置を中途半端ににすると音程の不安定感が残ります。短いサイズの尺八では4孔と5孔の位置も接近するため、この周辺の径を調整する必要も出てくる場合があります。
ちなみに私の工房での裏穴の位置は太さにより上下しますが1尺8寸管で歌口より228〜231mm、1尺6寸管で201〜204mmで設定しています。

◯指穴移動作業(竹の粉を充填し、アロンアルファで固め、研ぎ出して穴をあけ直す)
穴移動⑦.jpg穴移動⑥.jpg穴移動⑧.jpg穴移動③.jpg穴移動②.jpg穴移動①.jpg

鳴り方の障害はこの内径の調整と位置移動でかなり改善されますが、「地無し管」や「広作り」の尺八では内径全体が広い場合が多く大甲音などはかなり出にくいので裏穴の鳴りも影響を受けます。このような尺八や修理をしないで甲の裏ヒの音程を上げる裏技として1、2孔の運指を一工夫する方法があります。
運指ヒの五①.jpg

都山流では「ハ」は1、2孔を閉じます。「ヒ」も同様に閉じたままです。
琴古流では「ヒ」(都山のハ)も「ヒの五」(都山のヒ)も甲では1孔閉じ、2孔は開けて吹きます。
この琴古流の手法で裏穴「ヒ」を出してみましょう。かなり出易くなります。
運指ヒの五②.jpg運指ヒの五③.jpg

さらに1孔開けて、2孔を閉じて吹いてみましょう。「ハ」(琴古流のヒ)は半音上げって「半音のヒ」(琴古流のヒの五の中メリ)となりますが、裏「ヒ」(琴古流のヒの五)は少し音程が上がるだけで音も出易くなります。
裏穴の音に支障が無くても、「弱音で裏ヒを伸ばしたい時」や「短い尺八を使用する時」などこの1、2孔閉開を併用すると表現にぐっと幅が出ますよ!


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