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工房移転のお知らせ

2013年4月10日「尺八工房船明 ふなぎら」は東京都町田市へ引っ越しました。
長年住み慣れた川崎市多摩区を離れ、新たな地で工房を開きます。
皆様の御来店、お問い合わせをお待ちしております。

尺八工房 船明 ふなぎら
〒195-0064
東京都町田市小野路町2572-27
Tel & Fax : 042-708-8377
E-mail : funagiram@ca2.so-net.ne.jp
ホームページ http://www001.upp.so-net.ne.jp/syakuhatikoubou/

工房へのアクセス:
小田急線「鶴川駅」よりバス10分(5番バス亭)、「下堤」バス亭下車 徒歩10分
     5番バス亭よりどの方面行きでも「下堤」に止まります。
※駅より遠く、今までより不便ではありますので、ご一報下されば車でお迎えいたします。


工房までの地図02.jpg

いろいろな尺八 [今日の工房]

いろいろな尺八
いろいろな尺八を見てきました。工房へ持ち込まれた尺八は日本全国の製管師が作製した苦労と創意工夫のたまものです。見事な外観とすばらしい鳴りの名品から安売り尺八まで機械で自動的に作った物は無く、皆1本ずつ手作業で形作られたからには、製作者の思いが込められていると思います。良い楽器を提供しよう、安価で誰もが購入できる尺八を提供しよう、そしてどんな人が購入しようと大事に長く使って欲しいと願いつつ製作していると思います。また、私の工房へ調整で持ち込まれる尺八は依頼者にとって何かしら欠点や不具合があるからなのですが、依頼者は一生懸命に吹いて慣れて音を出そうとしたのでしょう、そんな努力の跡が尺八に刻み込まれています。長く修理調整をやってきてもう30年近くになりますか、請け負った尺八は5千本を越えたでしょう。
たかが尺八されど尺八、これで飯を食ってる訳で、ありがたいと感謝しつつ依頼者はもちろん製作者にもそして尺八本体にも敬意をもって接していきたいと思います。

さて、驚いたこと,困ったこと、こんな尺八はいかが?という話題です。

「しの尺八」
しの尺八1.jpgしの尺八2.jpg
民謡のお客様がお持ちになっておりまして、歌口が小さいので吹きにくいから修正して下さいとのこと。おっと!これは初めて見る尺八?篠笛?
民謡では尺八も篠笛も吹ける方がいろいろな曲に対応できるから篠笛を習っておいた方が良いのですが、吹くことは出来るとしても7つの指穴運指がドレミになっていたりして戸惑いますね。そこで篠笛を縦にして尺八の歌口を取り付け、ロツレチの運指にしたのがこの「しの尺八」です。指穴が8つありまして下の穴からツメリ(ツ半音)、ツ中メリ、ツ、レ、チ、リメリ(ハ半音)、リ(ハ)、イ(ヒ)となっており、ツメリとツ中メリの二つが完備されているので便利ですが、ツの運指は中指を開けることになりちょっと戸惑います。音は当然篠笛の音ですが、とにかく歌口が小さくて慣れるのが大変!これなら篠笛を練習した方が早いかなあ……..。
しの尺八2本.jpgしの尺八3.jpg

「困った尺八」
地材料1.jpg
左は通常の漆「地」右がプラスチックの「地」

鳴りの改善を依頼され管内を削ることになったのですが、とにかく堅い!!ガリ棒でも歯が立たない。なんじゃこりゃとノミで削ってみると鰹節のような削り滓がポロポロ。プラスチック樹脂を充填して作製した量産品でした。作り方としては内径を型取った棒を広く削った管内に入れ、隙間に樹脂を流し込んで固まったら棒を抜くという「型抜き」製法ですね。現在安価で販売されている尺八は全てこれだと思います。棒が中心に沿ってバランス良く置かれていると結構良く鳴る尺八が出来るのですが、曲がっている竹材や偏って棒が挿入されると鳴りが良くありません。しかも固まると堅いので修正は出来ずそのまま販売……。樹脂を使う製法では管内一杯に充填した樹脂を特殊な旋盤でくり抜く「削りだし」製法もあり、こちらの尺八は結構バラツキが無いみたい……。これを調整依頼された時は泣きたくなりますね。電動ドリルを使い樹脂を削り落としてから改めて漆の「地」を入れて作り直しです。あーあ、やんなちゃった!
地材料3.jpg地材料4.jpg
堅い樹脂とは正反対、ボロボロの「地」もありました。表面の漆は固まっているのですがガリ棒やヤスリで削り出すと、ボロボロと崩れるように「地」が剥離して落ちてきます。漆ではない凝固剤を使用したり、漆の含有が少ない地の粉だけで固めたりして製作したのですね。漆より早く固まるので製作日数を稼げるのが利点でしょうか。しかし脆いのですよ。そーと削って正規の「地」で埋めても下の柔らかい凝固剤と接着せず、調律ができません。これもぜーんぶ落として「地」の入れ直し……トホホ。

「お経尺八」
お経1.jpgお経.jpg
レーザー加工で尺八の表面に経典を彫ってあります。プリントアウトしても、パソコンで作製した字や絵をデータCDに入れても、持っていけばそのままどんな素材にでも刻印してくれるそうです。

「三つ折れ尺八」
三つ折れ1.jpg三つ折れ②.jpg
これは私の工房で作製した物。A管(2尺4寸)なのですが5孔の上と1〜2孔間にジョイントがあります。長い尺八なので歌口角度の調節と1孔の位置が動くので薬指の位置を奏者に合わせることが出来ます。この尺八は中指が開いている6孔尺八です。通常ここに作られるジョイントが無いので中指穴が自由に設定できます。
作製は面倒ですがお客様には大好評!(まだ1本しか製作してませんが)

日々尺八は進化します。
このブログをご覧の皆様、この他に何かなるほどというアイデアなどございましたらご紹介下さいませ。




本曲吹き合わせ講習会 in 法身寺 and 深大寺 [高尾山・尺八本曲鑑賞会]

5月28日(土)新宿法身寺にて琴古流本曲吹き合わせの講習会と奉納演奏をしました。
この10年ほど高尾山にて本曲鑑賞会を開催してきましたが、2007年にミシュランガイドで高尾山が三つ星を獲得し観光客が激増!だんだん演奏会も開催しづらくなってきました。特に本堂での奉納演奏を2009年に初めて行ったのですがそれっきりで現在はお断りの状態です。そんな訳で虚無僧にゆかりの深い法身寺での奉納演奏となりました。
先ずはその前に合奏練習を兼ねて吹き合わせの講習会です。曲は「吾妻の曲」を選びました。8寸と2尺による吹き合わせでメロディーが子守歌のような親しみやすい曲でリズムも一定しており合わせやすいですね。受講者にはこの講習会用に製作しました本曲譜面が配布されました。
楽譜1.jpg楽譜2.jpg
奏法の解説ページがあり、楽譜には丁寧な手法付記(折り、スリ、打ち、緩急など)がなされ、表紙には高尾山の梵鐘をデザインした美麗な冊子になっております。講習会主催の橋本さんの燭の会より販売もされています。
風景後ろから.jpg風景前から.jpg

先ずは橋本8寸船明2尺で模範演奏です。楽譜自体は難しい手も無く、リズムも単調ですから合わせることは簡単ですが、2本の音が自由に絡み合う乗りの良い演奏にするには、回数を重ねることが肝要です。また、本曲ですから二つのパートとも「折り」や「スリ」「当たり」など独特の表現を必ず入れながら,単独でも本曲として聞こえるように吹くことが大事で二重奏ではないのです。
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講習の様子を一部お聞き下さい。

そんなニュアンス、勘所、表現方法を簡潔に分かりやすく,時にユーモアを交えて橋本さんの解説は進みます。質問にも丁寧に答えておりました。参加者は15名とやや少なかったですが、皆さん熱心に聞いていただきありがとうございました。

記念撮影.jpg

休憩を挟んでいよいよ本堂で奉納演奏となります。本堂には虚無僧の位牌や古い尺八、天蓋などが飾られ、はるか江戸時代の歴史を感じさせます。本尊に向かって一礼、橋本さんの前奏を一節聞いた後、吹き合わせ演奏の始まりました。1回きりですから多少緊張はします。乗りの良さが、時には走ってしまうような演奏も瞬間見られましたが,尺八の音は朗々と本堂に響き、厳粛な気持ちに体が高潮したところで演奏が終わり、一気に緊張が解けました。良い演奏でした。
奉納演奏.jpg
高尾山での演奏が難しくなってきましたので、ここ法身寺のような雰囲気のあるお寺を探して、毎年お寺めぐり兼奉納演奏のような企画を模索しています。やはり尺八本曲はホールのような所ではなく神社でもなく、寺院がふさわしいような気がします。

そんな9月のある日、調布にあります「深大寺」に本曲演奏の舞台となるか見学に行ってきました。
http://www.jindaiji.or.jp/
深大寺本堂.jpg
昔橋本さんが演奏した縁でご住職の張堂完俊さん(ちょうどうかんしゅん)に直々に話を聞いていただき、演奏、奉納など是非どうぞとあっさり許可がおりました。
実はご住職昔尺八を習ったことがあり、その後事情で続けることが出来なかったとのことで尺八には並々ならぬ思い入れがありそうでした。打ち合わせ等これからですが,今年は本曲鑑賞会in深大寺となりそうです。乞うご期待!
護摩堂2.jpg護摩堂護摩堂.jpg護摩堂内部
深大寺周辺のお店には「ゲゲゲの鬼太郎」グッズを売る鬼太郎茶屋があります。
漫画家水木しげるはここ調布に住んでいるのですね。鬼太郎茶屋.jpg

(株)目白にて尺八講習 [今日の工房]

11月12日(土)尺八のお店「目白」にて尺八性能アップ講習会をしてきました。
https://www.mejiro-japan.com/

鳴るための条件、性能アップの秘訣などを歌口・音程・内径に分けて図解しながら説明し、その後受講生の尺八診断をするというサービス満点の講習会です。毎日大量の調整依頼尺八と格闘しているので、いつもの作業を解説しているような感覚でした。受講生は12名集まりまして、それぞれ趣味で尺八を製作していたり、吹奏に悩みがあったり、訳あり尺八の受診だったりと受講の動機は様々のようですが熱心に講義を聞いていただきました。ただ、私の話が上手ではなかったのでうまく内容が理解できたかちょっと心残りではありました。

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先ずは尺八の構造説明からスタートです。このブログでも詳しく解説しているように歌口構造、音程、内径のポイントなどを黒板に図解しながら講義していきました。
指穴図.cwk-(DR).jpg

その前に製作者から見た「尺八の定義」をお話したかどうか記憶が定かではないですが、このように思っていますと披露しました。
「良い尺八の条件」「良く鳴る尺八とは」という定義です。私は良く鳴るとは「大きな音で鳴る」ことではないと思います。歌口に唇を合わせやすい形状を持っている、つまり歌口エッジを探ることなくすぐ音が出る・吹きやすい・息が安定して入ることが大事であり「乙から甲まで同じ息量で反応」するのが「良く鳴る」尺八なのです。
そして音程が揃っている(筒音に対して同じ音程になり、オクターブでも合っていること)ことが「良い尺八」の条件なのです。その結果大きな音が出るのであり,良い音色が生まれるのだと思います。

同じ意味で「尺八の価値」ということを言いますね。
工房では修理調整依頼を受けるときよく聞かれる言葉があります。
「この尺八は直す価値があるでしょうか?」と。私はこう答えます。
「もしお手持ちの尺八が不具合や満足出来ない所があるのでしたら直して使いましょう!直して価値のある尺八にしましょうよ!」と。
つまり尺八は外観や竹材の善し悪しで鳴るわけではなく、製作者の技術力で性能が決まるのです。模様などの外観は自然が作ったもので作者の技術とは関係有りませんから、立派な竹材・外観(金銀などの装飾)は希少価値・贅沢品としての値段が付けられますが性能の値段ではありません。
ということで、私の製作する尺八は私の技術の範囲内の「価値のある尺八」であり、私より技術力のある人が製作すればさらに尺八の価値は上がるのです。
これは修理調整・改作でも同じことが言えます。

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さて、おおよその尺八の構造説明が終わり、後半は受講生が持参された尺八の診断です。
ものすごく上手に製作している尺八がある一方、初歩的なところで悩んでいる尺八まで実に多様でした。
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歌口の成形が難しいようで、私のブログも読んでいただいているらしいのですが、エッジの深さが3mm以下の実に浅い形状が多かったですね。内径では理想曲線のグラフをチャートしながら製作しているつもりでも測定が悪いのか同じになっていないので鳴りが悪い尺八がありました。測定機器はリングゲージも良いのですがダイヤルキャリパーが高価ですが確実です。何度も測定して完全に同じ曲線になるまで管内を成形する練習をお勧めしました。

原田様A管.jpgキャリパー①.jpg

午後1時から開始された講義はあっという間に4時過ぎになってしまい、後半の尺八診断が急ぎになってしまったのでまた機会があれば診断のみの講義などしたいと思いました。
受講いただきました皆様ありがとうございました。

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三曲あさお第18回定期演奏会 演奏報告 [三曲あさお]

記念撮影完成版.jpg

三曲あさお第18回定期演奏会
11月19日(土)新百合ヶ丘駅近くの昭和音楽大学ユリホールにて三曲あさお第18回定期演奏会が開催されました。当日は横なぐりの雨が降りしきる大変な悪天候で客足が心配でしたが、うれしいことに満席に近い来場をいただき会員も気合いが入りました。
今回は「日本の歌の源流を求めて」と題しまして平安から現代までの歌の歴史を紐解きながら演奏を構成してみました。源流を求めてと何やら難しそうですが、単に古い順に曲を並べただけであまり詳しくは解説せず、邦楽を楽しく聞かせる方法はないかなと思ったわけです。
演奏風景をご覧いただきながら演奏の様子、歌の歴史をお話ししましょう。

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幕開けは「明日があるさ~上を向いて歩こうメドレー」で始まりました。歌は様々な形で歌われます。一人で,みんなで、泣いて,笑って、感動して、励まして、友達と,家族と,クラスの仲間と,地域の人達と……我々は中村八大作曲の有名な曲を邦楽器で歌ってみました。軽快なリズムにやや乗り遅れた人もいましたがそれはそれでご愛敬、一緒に演奏することが楽しいのです。

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次は「声明御詠歌と尺八本曲」です。これは東日本大震災で被災され犠牲となった方々への慰霊と鎮魂を込めて演奏しました。
日本の音楽の歴史を見ると日本古来の大和言葉として「うた」「おどり」「ふえ」「こと」「つづみ」などのような音楽用語、楽器名があったことから古来より農耕儀礼、呪術、祭礼などに歌と楽器が奏でられていたようです。その後大陸より雅楽や仏教が伝わり声明も一緒に入ってきて寺院で法要の際に歌われ始めます。独特の節回しで歌われる声明は同じ宗教的な発生源を持つ尺八音楽に影響したと思われます。そこで比叡山の天台声明のCDをバックに琴古流本曲「虚空鈴慕」を演奏しました。また、難解な漢文の声明より発展して和文、和歌で書かれた和讃つまり御詠歌へと形を変えていくと、庶民でも信仰と一緒に唱えることが出来るようになり各宗派で独自の御詠歌が出来ていきます。今回は真言宗密厳流御詠歌を会員の松戸さんを導師として有志で歌い、竹内さんの海童道道曲「山谷」を合わせて演奏しました。
船明.jpg松戸.jpg

演奏をyoutubeにアップしました。
http://www.youtube.com/watch?v=_EiqHd8cEHg

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3番目は生田流地唄「夕顔」を演奏しました。大陸より伝来した雅楽は今で言えば最新の洋楽ですから、特権階級の貴族のステータスシンボルとして皆競って楽器を習得したようで、源氏物語には源氏の弾く箏に琵琶や笛で合奏する場面が描かれています。中世の混乱の中、各地の寺院に伝搬した雅楽は形を変えて進化していきました。声明と連結して平家琵琶になったり、「越天楽」という雅楽のメロディーを使って箏伴奏の歌曲が作られるようになります。箏はその後江戸時代に入って八橋検校(検校とは盲人組織の役職名)が現在の箏曲の基礎を築き、孫弟子の生田検校の時「生田流」と唱えられるようになる。生田検校は伝来した三味線と箏曲を合体させた新たな地唄を作曲し始めます。「地唄」とは上方(京阪地方)の人々が自分たちの「土地の唄」という意味で用いた名称で、江戸(東京)の人達はこれを上方唄と呼んだそうです。要するに地唄とは上方で盲人音楽家によって作曲・演奏された箏・三味線音楽の歌曲と言えるのです。この曲は源氏物語の「夕顔」の巻を歌詞にして前唄ー手事(器楽演奏)ー後唄の構成で,今回は三味線4丁と箏一面、尺八3本で演奏しました。

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4番目は山田流箏曲「さらし」です。山田流は山田検校が江戸で興した箏曲です。山田検校は関西で育った箏曲が江戸の人々の趣味に合わないことを知り、歌舞伎音楽や謡曲を参考にして語り物の色彩の濃い箏伴奏の歌曲を作曲したのです。山田検校は作曲の他楽器や箏爪の改革も行い、自作曲の楽譜出版まで手がけている。今回は深海さとみが編曲した替手箏を入れ、山田・生田両流の合同演奏という他団体では考えられない快挙を実践しました。

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休憩後の最初は「四つの小品」です。長澤勝俊作曲のいわゆる長澤節オンパレードの楽しい曲です。明治時代に入り政治経済文化みな新しい体制でのスタートを切りました。洋楽が日本に入ってきて、音楽学校も作られて邦楽も様々に進化し始めます。宮城道雄という天才演奏家・作曲家が現れ、現在でも正月になると必ず演奏される「春の海」が作曲されました。この曲は民謡の音階、箏の古典の音階を使用していますがロンド形式でまとめられた非常に明快な親しみやすい曲です。この四つの小品も沖縄民謡や雅楽、都節音階など使っている音階は従来の日本音楽なのですが,メロディーとリズムがモダンで親しみやすく合奏していても楽しいですね。三曲あさおの最強(最恐?)メンバーによる力演でした。

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三味線の撥を箏爪に持ち替えて沖縄の三線らしい音にしてみました。

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次は琴古流本曲「吾妻の曲」です。琴古流の母体となったのは、いわゆる虚無僧と呼ばれる僧体の人々が尺八を法器として修行に用い、各地に虚無僧寺を建立して活動し「普化宗」(ふけしゅう)と唱えた宗教団体です。江戸時代半ば黒沢琴古という虚無僧が全国を行脚して各お寺に伝わる修行曲を収集し36曲を制定、弟子に伝えたのが琴古流の始まりです。お経の代わりに吹いたと言われるだけに非常に精神性の強い難解な曲が多いですね。しかしその中にあってこの「吾妻の曲」他数曲はなぜか子守歌のような、祭笛のようなメロディーで構成され、「戯曲」とよばれたそうな。托鉢の際に聞いた歌や祭のメロディーが入っているのでしょう。16人の尺八の音色が朗々と会場に流れ圧巻でした。

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7番目の曲は「吉野静」筑紫歌都子作曲の箏尺八二重奏・歌曲です。筑紫歌都子は宮城道雄と同時代の女流箏曲家・作曲家です。高音で歌う歌曲が多くドラマチックで甘い楽曲が作者の特徴です。内容は源義経と白拍子静御前の悲恋を歌い、静御前が頼朝の前で舞い、詠んだ和歌が泣かせます。「しずや しず しずのおだまき くりかえし むかしをいまに なすよしもがな」三曲あさおのゴールデンコンビといわれる大和田・船明ペアの華麗なるドラマが展開されました。
youtubeアップ映像
http://www.youtube.com/watch?v=i95RbE91NGc

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さて、残り2曲となり、ここで一息。会場の皆さんと一緒に童謡唱歌を演奏かつ歌いました。歌は「さくら」「赤とんぼ」「通りゃんせ」「故郷」の4曲です。今回の演奏会で千鳥の曲後唄を歌っていただく「麻生女声合唱団」の皆様方と邦楽器の伴奏、お客様の歌声が会場いっぱいに響きわたり歌をテーマにしたコンサートはクライマックスへと移ります。

千鳥全景.jpg
最後は江戸後期に作曲された生田流の箏曲「千鳥の曲」です。今回歌をテーマに演奏曲を選考していましたが、最後に何か古典をアレンジして大合奏できないかなと思案をめぐらしていました。6月に毎年恒例の麻生音楽祭があり、私は実行委員として前年より会議に出ていました。その縁で委員長をしていたコーラスの宗いづみさんに千鳥の曲の歌をコーラスで歌っていただけるか打診してみました。驚いた様子の宋さんですが五線譜があれば可能と言うことで,早速行動開始です。先ず箏の楽譜から歌と演奏を五線譜に翻訳します。それから作曲家の川崎絵都夫先生へメールで編曲のお願いをしました。先生は10月に開催される日本音楽集団の演奏曲の作曲に忙殺されていて時間がなかなか取れない様子。楽譜が出来たのは9月末のことでした。全曲は無理なので前唄は古典そのままに生田流、山田流で歌い分けました。手事は長澤勝俊編曲を使用し、後唄のみ箏の手は原曲そのままでコーラス三重奏にし、17絃も入れた編曲がされていました。コーラスの方と打ち合わせをし、川崎先生をお迎えして初めて合奏したのは11月に入ってのことで、思えば綱渡りの冷や汗もの。50名の大合奏となりました。私、生まれて初めて指揮をしました。生来の左利きでタクトを持つ手も左手、逆の振り方で慣れてしまったのでコーラスの方々には大変見にくくご迷惑をおかけしました。しかし古典をアレンジして現代によみがえらせる今回の企画はお客様の受けも良く先ずは大成功でした!川崎線先生も会場でお聞きになられて地唄箏曲の編曲はこれからの邦楽の可能性を示唆していると納得された様子で、我々の拙い演奏にもかかわらず大変満足されておりました。
youtubeアップ映像
http://www.youtube.com/watch?v=CIgl7vkQiqA


演奏終わって振り返れば今回はテーマに沿った選曲と演奏進行がうまくかみあい、まとまった良い演奏会だった気がします。
会員の皆様のご協力、賛助いただいた麻生女声合唱団の皆様、川崎先生、ご来場いただいたお客様本当にありがとうございました。


三曲あさお第18回定期演奏会ご案内 [三曲あさお]

ずいぶんと休んでしまいました。撮りためた写真が山のように溜まってしまい、いずれまとめてブログにアップしようと思っている内にさらに増えていき、しまいには面倒くさくなってズルズルと更新が伸びてしまった次第。仕事の忙しさもあるかというとそうでもなく、逆に大震災以降は2ヶ月ほど停滞して青くなりました。
震災ではお客様で亡くなられた方もおり、知人や親戚にも被災して難儀な生活を送っているとの知らせが入ると、この半年は少しナーバスな気分と言いましょうか、無常観と表現しましょうか、今ひとつ体が重く何を考えるでもなくじっとしていた感じでした。

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さて、震災の影響は我が三曲あさおにもおよび、4月23日に予定されていた三曲あさおの定期演奏会は延期となってしまいました。ご存じのように4月中は関東地方一円でコンサートが軒並み中止となり、余震も相次ぎさらに計画停電となってはコンサートどころではありません。3月の終わりに緊急会議で中止と決め、改めて11月19日(土)に会場を予約し仕切り直しとなったわけです。
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演奏会のほぼ1ヶ月前の大事件なので、演奏曲目はかなり出来上がっており、中止決定は演奏会に向け張り詰めていた緊張感がガラガラと崩れ、これもまた立ち直るのに時間がかかりましたね!しかし6月頃より再度演奏会の企画を練り直し、曲目を選定し、練習が再開されるともうゴール目指して一直線、気合いが張ってきました。そんな頃に新入会員も加わり暑い夏を乗り切ったと思ったらもう演奏会1ヶ月前となりました。時の経つのは早いものです。

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●チラシ発送作業、600通ほど出します。何人来ていただけるかなあ....

第18回となる今回の演奏会は「日本の歌の源流を求めて」と題しまして古典から現代の曲まで日本の歌のルルーツをたどりながら、いろいろと聞いて・見て・楽しい企画を盛り込んでみました。
大震災で被災された方々へ様々な救援活動が送られた中、避難所などで大きな喜びを与えたのは被災者を励ます「歌」だったと聞きました。
亡くなられた方々への鎮魂、被災者への励まし、そして一緒に歌って共に立ち上がろうという勇気を与えたのでした。よく歌われたのが「明日があるさ」「上を向いて歩こう」「故郷」などだったそうです。
そこで、演奏のオープニングとしてこれらの曲を選んでみました。

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日本の音楽には器楽だけの演奏というものは少なく、必ず歌が入ります。
その昔、仏教の伝来と共に各地に寺院が建立され、難解な経典を判りやすく民衆に知らしめるために、お経に節を付けて歌う「声明」が利用されたそうです。
また和歌を遣り取りする風習は平安時代の物語によく見られ、歌集もたくさん編まれました。和歌を詠むのにも節を付けて歌うのは百人一首などで現在もおなじみですね。
中世の絵巻物には民衆が輪になって踊り歌う様が描かれています。
能狂言から箏歌、三味線が伝来すると歌舞伎音楽の中核となって様々な形態の歌が創られました。
尺八の虚無僧音楽でさえも祭や古謡の旋律を奏でていると思われるものが多々見られます。という時代背景を基に声明をバックに尺八本曲を吹いたり、地唄箏曲を編曲したりして演奏を進めます。
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童謡をお客様と一緒に歌う企画も考えました。
「吉野静」は明治以後の箏歌の発展型として取り上げてみました。
そして演奏会の目玉として古典の「千鳥の曲」を大合奏曲として編曲し、さらにコーラスをゲストに迎え古典の歌を現代のハーモニーで聞いてみようという大それた企画を立ててみました。

会場は昭和音楽大学ユリホールで午後3時開演です。
皆様のご来場を心よりお待ちしております。

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尺八の音程 [今日の工房]

このたびの東日本大震災で被害を受けた皆様、そのご家族、ご親族の皆様に、心よりお見舞い申し上げます。

音程について
前回歌口の形状についてお話ししましたが、今回は音程について書きます。
そもそも音程はどのようにして決まるかというと、3つの要素があります。
歌口エッジ部の深さ、指穴の位置、内径の大きさの三つです。

工房で尺八の製作にあたっては工房の規格に沿っておおよその歌口の形を決め、指穴を開けます。そして管内に地入れ後、開けた指穴の位置で正しく音程が出るように内径を削りだしてい行くのです。ですので内径はほぼ同じような広さになります。時に竹材の太さにより指穴や内径を調整し、それに歌口の深さも連動して微調整を重ね、平均して442hzの音程になるよう作ります。ただし、季節や吹く人の息の強さにより音程は上下しますので、先ずは製作者が吹いた場合の正しい音程になりますが……。
いったん完成した尺八は音程が変えられないと思っていたというお客様がいらっしゃってびっくりしたことがあります。買った尺八の音程が低く、先生よりカルようにして吹きなさいと指導され四苦八苦、かわいそうです…….。

それでは歌口や指穴など各部分がどのように音程に関わっているか見てみましょう。

歌口は音の出るところですから音程に関係するのは分かるとして、どの部分かというと歌口前面にはめ込まれている琴古や都山のエッジ部分ですね。吹き口として斜めにカットして出来た窪みの深さが浅いと音程は低くなり、深いと音程は高くなります。流派や年代、製作者によってもかなり深さの設定が違い、後ほど説明する内径や指穴との関係から一概には言えませんが1mmの深さの違いで20〜40centくらい音程が上下します。
これはメリカリの技法というほどもない尺八では当たり前の音程操作で次のように説明されます。

メリ(エッジに唇を近づける):
この部分の面積を小さくして息の流速に抵抗を加え音程を下げる=エッジの窪みを浅くする
カリ(エッジから唇を遠ざける):
この部分の面積を大きくして息の流速にかかる抵抗を少なくし音程を上げる=エッジの窪みを深くする

実際に歌口の上の部分にビニールテープを重ねて貼り擬似的に歌口エッジ部の深さを変えてみたのが以下の写真です。
歌口深3mm.jpg盛り3mm.jpg

都山の歌口は3mmほどの深さで音程が442Hzで−20centと低めでしたが、テープを貼って1mm近く深くすると、最大で+30cent上がって平均20cent高めの音程が得られちょうど良い音程となりました。ただし、音程が全部一律に上がるかというとそうではなくて、歌口に近い裏孔が一番高く上がり、4孔→3孔→2孔→1孔→筒音の順番で上がり方が落ちてきました。適度な深さが得られたのか音量も増し、メリカリが非常にし易くなって音程以上の効果があるようです。ただ、3孔(チ)などは元々高め(+10cent)だったので、強く吹くとものすごく上がってしましました。もし歌口をテープのように加工すると、次に説明する指穴の修正も必要になってきます。
歌口テープ①.jpg歌口テープ②.jpg
歌口深4mm.jpg盛り4mm.jpg

琴古の歌口は4mmの深さがあり、鳴り易く、音程も442Hzで+10centと吹奏には問題ないのですが、やはり同じように1mmほど深くすると最大40centも上がり、今度は風息が混じり吹きにくくなり、メリが困難になってきました。深ければ良いという訳では無いようです。またその逆に歌口を削り3mm以下の深さにすると、詰まったような音になり、音量が落ちてメリが出にくくなる傾向が見られました。

それともう一つ、歌口の深さと顎当たりの関係を次の図に示します。

歌口深さと顎当たり.jpg

上記のように歌口を深くする時に顎当たりの角度を気をつけないと深さは適切でも、かえって吹きづらくなることがあります。
「歌口が深い時」の顎当たり角度2種を見ると、水平の顎当たりでは息の角度が勾配を増し最深部までの距離も遠くなって音が切れやすくなります(緑の線)。角度が傾斜している方が息の角度や最深部までの距離が適切で安定して音が出るようです(赤い線)。
「歌口が浅い時」の顎当たり角度2種では、水平の顎当たりの方が息の角度が適切で吹きやすいのに比べ、顎当たり角度が急だと最深部に向かって息が上向きになって吹きづらくなりました。
このことから、歌口エッジ部の深さと顎当たり角度は連動していて、エッジが浅ければ顎当たりは水平に、エッジが深ければ顎当たりは傾斜をつけるのが良いようです。

さて、次に指穴位置と音程の関係です。
以下に掲げる図は左側に歌口があり右(管尻)に向かって指穴が並んでいます。当然歌口に近いほど音程は高くなります。
指穴位置大きさと音程.cwk-(D.jpg

図①は同じ音程でも指穴の位置が歌口に近ければ穴は小さくなり、歌口から遠くなれば穴は大きくなるという図です。図②は同じ位置に穴が開いている場合、穴が小さければ音程は低くなり、穴が大きければ音程は高くなるという図です。
歌口のところで説明したように、開口面積が小さくなればなるほど抵抗が生まれ、音量音程が小さく(低く)なり、逆に開口面積が大きくなれば音量音程は大きく(高く)なるのです。ツメリ(ツの半音)リメリ(ハの半音)などはこれを利用して音程を作っているのですね。

さらに、実際に尺八を作ると指穴の深さによって音程が高めになったり、低めになったりします。
図③で見るとおり細い尺八でちょうど良い音程が得られている時、それよりさらに太い尺八で尺八を作ると指穴が深くなり、音程が低くなります。そこで指穴の内側を歌口方向へ削ったり、指穴自体を大きくしたりして音程を合わせる作業をします。音程が高い場合はこの逆に管尻方向へ穴を埋めて下がるようにするか、最初は小さめに穴を開けておいて製作しなが大きさを調整するかします。ほぼ全ての製作時にこの作業はかかせませんね。製品ですから指穴を移動すると移動痕が残ってしまいますので商品にはなりません。太い尺八は要注意!

修理調整依頼の時はこの限りではありませんから、指穴の移動を含め、さらに首のところで切って全長を伸ばしたり縮めたりすることは常時行います。
音程の微調整は歌口、指穴など構造が分かっていればご自分で出来る作業の範疇だと思います。水道管などで実験しながら歌口と指穴位置大きさの関係を習得されることをお勧めします。

最後に内径と音程の関係です。
江戸時代にほぼ姿形が決まってきた尺八は、本来管内に何も細工されない地無し管だったと思われます。
竹を掘り、節を抜き、歌口を切って、指穴を開けただけの素朴な楽器ですね。しかしそれだけでは鳴らない尺八があったり、音程が合わない尺八もあったでしょう。そこで皆同じように鳴るために管内に粘土状の漆を塗り込め、削りだして一定の内径を作り出す技術が生まれました。
地無し管は管内の広さによっては1尺8寸の長さでも1尺9寸に近い低い音程になってしまうことがあります。
それでも細めの竹を選べば管内もちょうど良く1尺8寸(54,5cm)で音程も現代のチューナーでぴったりという尺八はあります。

チューナーも何もない頃どうやって指穴を決めたかというと十割法とか九半割法とかいって、尺八全長の2割近くの長さを算出し(全長×0,225)、それを管尻から1孔までの長さとするのです。そして2孔3孔4孔は1孔より全長の1割の長さに均等に開けます。最後に5孔をその1割の5分4前後の位置に開けるという誰が考え出したか複雑な算出方法ですが3孔(チ)や5孔(裏穴)が高くなります。
明治以降管内に「地」を入れて内径を加工するようになり、地無し管よりは管内の径が狭くなります。
管内の体積が小さくなるのですから音程は上がってきますね。
そのため次の表に見られるように明治以降現代までだんだん全長は長くなり、指穴の位置が下がって来ています。
指穴配列表.cwk-(SS).jpg

つまり管内が狭くなれば音程が上がるので指穴は下がり、管内が広くなれば音程は下がるので指穴は上がります。なのに指穴は地無し管に近い位置のまま管内を狭く作れば音程は高くなってしまうので、指穴を小さくし、歌口は浅くすれば音程は上がりません。しかし、しかし音量が無く鳴りづらくなることもあるのです。

広い内径.cwk-(DR).jpg

最後の図は黒い線で示したグラフは現在一般に製作されている尺八の標準的な内径で、赤い線は琴古の戦前の演奏家にして製作者三浦琴童作のの尺八内径グラフです。赤い線の尺八は1尺8寸の長さに足りなかったり、管尻や指穴が極端に大きくなっていたりして音程を確保するのに苦労した形跡があるものを見たことがあり、良く鳴る尺八として戦前に家1軒建つほどの値がついたとか聞いたことがあります。

指穴対比写真.jpg
指穴対比写真
上2本は琴古の古い尺八、一番下は私の使用している尺八


尺八の歌口構造 [今日の工房]

年賀用.jpg

新年明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
工房船明も御陰様をもちまして3年目を越しまして皆様方の多大なるお引き立てに感謝感謝の毎日です。
昨年は尺八改造の依頼が特に多く、依頼者との細かい打ち合わせの中でいろいろなことを発見、再確認出来た年でもありました。
そこで特集として尺八の構造から見た、私なりの「良い尺八」とは何かを解説してみたいと思います。
一口に良い尺八と言っても、流派や再現する音楽のジャンル、奏者の好み、さらには尺八に対する考え方までその評価方法は様々であり議論の分かれるところです。
ですので今まで修理調整してきた経験から悪い構造の尺八を様々な角度から検討比較することで良い構造をもった尺八とは何かを自分なりに考えてみようと思います。

今回は歌口の構造を見てみましょう

尺八は管楽器の中でその楽器の大きさの割に歌口が大きい構造をしていると言われます。
フルートやケーナのように尺八と同じような吹き方で音を出すエアーリード楽器を見てもその吹き込み口の大きさは唇の大きさを超えません。尺八は歌口の入口径が極端に大きいのです。
ここに首振り三年などと音を出すのが難しいといわれる原因の1つがあるようです。
音を出す原理としては管の端に隙間を作り、そこへ向かって息を吹きかけ空気を振動させて音が出るのだと聞いています。
歌口の入口を唇でほぼ塞ぎ、斜めにカットしたエッジ部に唇のノズルを近づける作業が楽に出来れば尺八は音が出るのですが、入口径が大きいと唇で塞ぐのが容易でない、エッジ部にもノズルが届きにくい状態になってしまうのが「音が出にくい」原因となるのです。
つまりは入口径をいかに適切に成形するかということなのでしょう。
多くの人が歌口を削った経験をお持ちと思います。
顎削り.jpg図1
入口縮め.jpg図2
図1のように顎当たりを削るのが一般的で、顎当たりが邪魔に感じるという理由の他に、エッジが遠く感じるためこのように加工するのですが、入口径を縮めなければ入口を塞ぐ面積もエッジ部との距離も変わらないので、感触は変わるとしても効果は多く得られないようです。

次に入口径が適切として、空気が振動する歌口エッジ部の位置がカットの仕方によって変わるというのが図3です。
歌口カット角度図2.jpg図3
舌面角度は何度が適切かと質問されて、23~25度くらいの角度が適切かなと答えると結構垂直に近いですねと驚かれる場合があります。琴古流の尺八では30度以上の鈍角にカットしてあるものあり、音が柔らかくなるとかメリが出やすいとかいろいろ聞くことがあります。
しかし構造的にはカット角度によりエッジ部最深部の位置が、鈍角では歌口カット位置より遠くなり鋭角では近くなり、その位置によって音の出やすさが変わると言えるでしょう。
音を出すときノズルは歌口カット位置の外に出ることはないので、カット位置より手前でエッジ部を探ることになります。
その時、出来ればカット位置に近いところにエッジの最深部がある方が位置確認が容易で音も出しやすいと考えられるのです。
歌口エッジの深さや顎当たり角度とも関連しているので一概には言い切れませんが角度の違いにより音が出やすくなることは確かなのです。

歌口顎当たり角度.jpg図4
顎当たり角度の違いでもエッジ部までの距離に差が出るというのが図4。
顎当たり角度が水平な時より傾斜がある時のほうが唇(ノズル)の位置が少しエッジ部に近づきます。

これらを総合して径を変え、カット位置を変え、角度を傾斜させると図5のような歌口が出来上がります。
歌口完成形.jpg図5

竹材の太さも影響ありそうです。フルートのように横に構えれば例え竹材が太くても顎の接地面はそれほどではありませんが、縦に当てると太い竹はまともに顎に抵抗を感じます。そこで太さにより歌口のカット位置を変えたのが図6です。こうすることにより顎当たりの感触は同じになり太さによる抵抗感が無くなるのです。

歌口カット位置.jpg図6

このように歌口前面のカット位置は顎を乗せる後ろからを基準にすれば太さによる違いは無くなると思うのですが、そうしない理由の1つに、あまりカット位置が中心に寄ると、斜めにカットした舌面に穴が空くのです。商品として傷物扱いにする製作者もおり、楽器としての性能よりも見た目を重視したおかしな話ですね。


他に竹材のいびつな形そのままに歌口入口の形状が曲がって製作されると、まっすぐに尺八を構えていても何だか歌口が斜めに曲がるような気がしませんか?
このような尺八は外側も内側も成形してあげるのが親切です。図7
歌口のゆがみ図.jpg図7


時に見られる歌口の悪い磨き方の例です。図8
歌口盛り図.jpg図8
顎を乗せる歌口上部をすり鉢状に丸みがかって磨いた尺八です。顎に当たる感触がソフトで吹きやすいと言う人もおり、全て悪いとは言えませんが図のように丸みの頂点からの径を見ると入口本来の径より大きくなり、結果的にエッジが遠くなってしまう場合があるので極端に丸くするのは止めましょう!

もう一つ、これは歌口形状とは関係ありませんがエッジ部の内側にボッテリと漆を厚く塗る、又は内側にカーブするように成形してある尺八は鳴りが柔らかくなる利点もありますが、何か鈍い、伸びの無い、詰まった音になることがありますので注意が必要です。

エッジ部内側.jpg

当たり前のことですが音が出るのは歌口の部分しかありませんから、全体的に音が出にくい、音程が不安定、メリカリが出来ないなど発音に疑問があるような場合は歌口の形状を改善することから始めることをお勧めします。全部の音ではなく特定の音が出にくいのであれば管内の構造に問題がありますが、歌口が原因の場合尺八の修理調整は何度やっても直らないことがあります。用心用心……..



同窓会と楽器博物館 [尺八雑談]

8月14日(土)中学の同窓会に誘われて田舎に帰省しました。
お盆のど真ん中なので道路は混むし、実家はお寺なので忙しいというこの時期は先ず避けるのですが、同窓の幹事の方より余興として尺八演奏を頼まれたので二つ返事で出席と相成りました。
14日早朝4時頃家を出発したら、東名高速道路は空いていて順調に静岡県入り、途中牧ノ原サービスエリアで大雨になり朝食をゆっくりといただきました。
磐田市に着いて駅近くのホテル駐車場に車を置き、会場の醍醐殿宴会場へ向かいました。猛暑の夏でしたが、ここ遠州地方は平らな地形に加え海からの風が吹くので東京よりは暑さは感じません。余興の打ち合わせのため1時間前に会場入り、幹事の坂口さん佐藤さん長谷川さんと打ち合わせをします。皆さん地元磐田市の公務員や学校の先生で頑張っています。

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この同窓会はクラス単位ではなく学年全体で行うもので10年おきに開催されてきたそうですが、一昨年の3年5組同窓会と同様昭和45年卒業以来の再会となります。しかし幹事のご苦労の甲斐無くあまり集まらず60名程度の参加となりました。

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受付近辺にはもう出席者の顔が並んでいますが遠目にはまったく誰なのか判別できません。自分もそうですが頭の白いおじさんおばさん達の姿は年月を感じさせます。やがて昔の顔を思い出して苦笑い、相手もこちらを思い出しながらニヤッと笑う。顔と一緒に昔の学校の出来事がオーバーラップしてスローモーションで現実と回想が混ざり合う不思議な再会の瞬間が同窓会の醍醐味ですかね。

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会場は1組から5組まで組ごとのテーブルが用意されていて、当時の担任の先生が来られるのですがもうお二人は亡くなっており、お盆という時期でさらにお二人が法事で欠席、来られたのは1組の坂本先生と音楽の長谷川先生のみというちょっと残念ではありました。
しかし乾杯後、料理と酒と昔話で会場は一気に賑やかになっていきました。
竜中校歌2.jpg竜中校歌.jpg
校歌を全員で唱和、覚えているもんですね。

先生のお話、ビデオ映写、近況報告などの後、余興と言うことで私の出番となりました。尺八というマイナーな楽器でどうやって宴席を盛り上げようか考えまして「流行歌で綴る卒業後」と題してその時その時に流行った歌をダイジェストで吹いて構成してみました。卒業した昭和45年は「走れコータロー」二十歳の成人式時には「シクラメンのかおり」私の結婚翌年が平成に年号が変わり「川の流れのように」21世紀となった西暦2000年には「孫」実際早い人はもう孫がいました。そして締めに「遠くへ行きたい」と20分ほどの独演会になってしまいましたが皆さん喜んでくれたみたいでアンコールまでいただきまして、ありがとうございました。その一部を聞いてください。

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宴会は2次会へと移行し、組を離れて様々に話が飛びます。私、朝早い上に尺八の演奏で一気に酔いが回り、かなり酩酊状態でこのあたりからあまりよく覚えていません。
午前中から始まった宴会で5時頃お開きとなり、そのままホテルへ帰ってしばらくは寝ていましたね。
楽しいひとときでした、良い夏休みでした。

楽器博入口jpg.jpg楽器博太鼓.jpg
入り口ロビーに展示されている台車に乗った太鼓

翌日、15日は帰省ラッシュが終日ありそうなので今日は姉の所へ泊まることにして、せっかくの休日をフルに楽しみました。先ずは浜松の楽器博物館へ行ってきました。

浜松在住で尺八演奏他音楽のお仕事されている本司真山さんを無理してお呼びし、いろいろガイドしていただきました。この楽器博物館の設立に関していろいろとアドバイスもされたと聞いております。
本司さん.jpg
アジア展示.jpgオルガン.jpg
浜松はヤマハ創業の地、初期のオルガンが多数展示されています。

博物館に入ったフロアーはアジアと中近東の楽器、他に体験コーナーや特別展示の部屋があり、階下にヨーロッパの楽器、ピアノのコーナーなどが展示されていました。
中でも日本の楽器コーナーはもちろん尺八がお目当てですが、手にとって触れるわけではないので演奏者・製作者としては少し物足りないのはしょうがありません。カタログも別に販売しておりかなり貴重な尺八がありそうです。

邦楽器全景.jpg尺八陳列.jpg尺八写真.jpg
体験.jpg
体験コーナーには箏が置かれていました。

博物館の楽器を使用した演奏会、他に特別展示会などもあり尺八もその時には倉庫からいろいろと出されるそうなのでまた機会を見て来ようと思いました。一つ一つの楽器に歴史があり、本司さんの博識とうんちくに聞き入っているととても全部回りきれないので、結局アジアを中心に見て回り、ヨーロッパは時間とカメラの電池も無くなってさっと過ぎてしまいました。残念………
本司さんありがとうございました。
私.jpgポスター.jpg

博物館を後にして、故郷へ帰ると必ず訪れる遠州灘の海岸へ車を走らせます。
2年前に来た時より風力発電の風車が多く設置されているのには驚きでした。
快晴の海岸に佇み、海風の強い揺れに体を任せ、寄せては返す波の鼓動を感じていると……うーん至福の時です。ちょっとだけその雰囲気を映像でご覧ください。




尺八の簡単割れ止めと音程調節機能付き尺八 [尺八雑談]

このところ忙しくてブログ更新やチェックを怠っておりどうもいけません。
返事兼更新記事を書きます。
書き込みいただいた湊山さんへ具体的な割れの簡単対処法と音程調整尺八などをご紹介いたします。

割れの予防には常にビニール袋に入れて持ち歩く、冬などの季節は急激な温度変化を避けるなど保護して保管するにしても、演奏する時はむき出しの状態ですから尺八本体に何か巻き付けて割れないようにするのが一番ですね。
最初から割れ巻きを施してきれいに籐巻きをするのがベストですが、素人では難しいし、専門家に頼むと高いしで大変です。テグス糸も巻くのが結構難しいです。そこで簡単で見た目も丁寧に巻けば不自然ではない方法をお教えしましょう。

割れ補修①.jpg
実はビニールテープをきつく巻くだけなのです。写真は黄色いテープですが、黒や茶色など尺八に巻いて遠目には漆のように見えるテープを使用します。
巻く場所を決め、均等に間隔を空けて巻いていきます。ポイントは切れる寸前まで強く引っ張りながら巻き付けるのです。そして最低5回以上同じ太さに揃えながら重ねていきます。ごらんの通り割れがぴったりと閉じました。(巻き方が雑ですみません、何度か練習して下さい)
割れ補修②.jpg割れ補修③.jpg割れ補修④.jpg割れ補修⑤.jpg

このように割れる前に事前に巻いておくと防止になります。完全ではありませんが亀裂が大きく開くのを防ぐことはできます。
事前に巻く時は、歌口のすぐ下(3cmほど間隔開けて2カ所巻いておくと丈夫)、5孔(裏穴)の上の節の上下、下管では1〜2孔間にそれぞれ巻きます。

音程調節機能付き尺八
全体写真.jpg部分写真①.jpg

季節により尺八の音程が上下し、演奏に不自由を感じるのは皆さん同じようです。今年の猛暑は私も尺八製作にも支障が出るほど音程が高く出るので音程調整はしんどかったですね。そして「音程を下げてくれ」という修理調整の依頼が多かったのも今年の特徴ではありました。
フルートのように頭部管をスライドさせて全長を伸縮させる機能があればかなり悩みは解消するのですが。

昔からフルートのように音程調整機能が付いた尺八は考えられていたようで、写真のように上管の途中にホゾを入れてスライドさせて音程を上下させていたようです。私も以前このようなタイプを製作したことがあります。

音程調整①.jpg音程調整②.jpg

がしかし、フルートはかなり薄い金属のホゾがスライドするので管内の径に影響は出ませんし、尺八の内径構造のようにテーパーがついていなくてストレートなため、全体の音程がかなり均等に上下出来る構造のようです。
尺八の場合もホゾを薄い金属で作製すれば内径への影響が少なくて済みそうですが、自然の植物である竹を利用するので太さがいろいろあり、一定の内径構造に出来ないため、削れない金属を最初から嵌め込むと微調整が難しくなることが予想されます。
プラスチックや木管のように同じ形状で大量生産されるものには有効かと思われます。(良く鳴ればですが)
普通の竹製のホゾは強度を考えると厚さ3mm以上は必要でそのような厚さを持ったホゾを2〜3mmスライドさせるだけで内径に大きな溝が出来て、鳴りに影響が出る場合があります。もし作るとすれば写真のような位置ではなく歌口の真下が一番影響が少ないと思われます。

しかし製作してみるとフルート違って内径構造がかなり複雑なためか、均等に音程が上下せずに、歌口近い5孔の音程が一番大きく上下し、以下4321孔と上下の幅が小さくなっていきます。1本しか製作していませんので確かなことは分かりませんがスライド機能を有効にする為の内径構造が必要なのかもしれません。

音程調整③.jpg

それなので、写真の長い方の尺八(2尺)のように3カ所のホゾを設け、一番上で4、5孔 2番目で3、2孔 3番目で1孔を調節するようにすればかなり正確に各音を調節することが出来ます。それでもスライドさせればホゾの隙間で溝が出来ますからホゾと同じ太さのドーナッツ形リングを数種類用意し、音程調節で出来た隙間を埋めるようにすれば完璧でしょう。

でも昔作製して結局使わなかったのはなぜでしょうか?
野外や体育館などで演奏する場合以外はホールなど空調設備の整った環境では温度も季節に関係なく一定なので、ある程度メリカリで対応出来るし、ピアノのように一定の音程に調律されてある楽器と演奏するのでなければ、箏などは2〜3Hzの上下などすぐに対応してくれる楽器だからでしょうか。

8孔写真.jpg焼き印.jpg

この8寸管はかなり古い尺八で8孔尺八です。ツのメリ、中メリに対応出来るよう小指でE♭、薬指でE、中指でF を出します。戦前の演歌尺八のことを書いた記事にこの8孔尺八のことが紹介されていました。しかもこの尺八は加えて音程調節機能がついているのですから、昔の尺八吹きの先達は進んでいたのですね!







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